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釜の音
5部分:第五章
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第五章

「鳴ればおしまい、鳴らなければそのまま」
「思えばそれだけなのですが」
「しかしそれで全てが決まってしまう」
 無常だ。そう言うしかない。
「それだけでね」
「よい結果を期待しています」
 一応はそう若松さんに告げた。どうなるかさえわからないというのに。
「有り難うございます」
「それではですね」
 僕のことについての話をはじめた。正直これはどうにでもなる話だった。実際に若松さんのアドバイスでどうにでもなってしまった。しかしもっと気懸かりだったのはその結婚の話だ。どうなってしまうのか、暫くそのことがやけに気になっていたのであった。
 だが暫くして。返事が届いた。
「鳴りませんでした」
「そうですか」
 僕はそれを聞いてほっとした。
「よかったですね」
「そうですね。今度は上手くいきそうです」
 若松さんは穏やかな笑みを浮かべて僕に述べてくれた。
「しかし。わからないもので」
「何でしょうか」
 ここからまた話に入った。
「二人共愛し合っていても釜が鳴る場合があります」
「そうなのですか」
「その時は愛し合っていても」
 最後まで上手くいきはしないというのだ。これもまた人の無常さなのだろう。愛は確かにこれ以上なく固く素晴らしいものである。だがこんなに脆く儚いものもない。人の心というものから生まれ出ているのだから当然と言えば当然なのだが。それにしてもあまりにも寂しいものである。
「片方が両方の糸が切れて」
「終わりですか」
「かと思えば片想いでも両方が何も想っていなくても」
「一生続く恋になる場合もある」
「そうなのですよ。わからないことに」
 若松さんは上を見上げるのだった。
「釜だけがわかります」
「そしてそれを操る神様だけが」
「神様かどうかはわかりませんがね」
 何故か急にシニカルになる若松さんだった。僕はその顔を見て微妙に異質なものを感じた。
「悪魔かも知れませんよ」
「悪魔ですか」
「そうです。悪魔もそうしたものを見せます」
 いささか哲学的と言うべきか。しかも十九世紀以降の。そうしたいささかシニカル、いやニヒリズムめいた考えを若松さんに見たのである。
「気紛れか何かわかりませんが」
「では悪魔にしてみますか」
 そのニヒリズムに乗ってみせることにした。
「それでですね」
「はい」
 また若松さんは頷いてくれた。
「悪魔が知らせた警告を聞かないと破滅するのですか」
「若しくは神の警告にしろ。あの釜はそういうものでしょうね」
「ですか。あのご夫婦、いえ奥さんはそれを聞かなかったから」
「ああいうことになってしまったのでしょう。あの時もっと止めていれば」
「そうですか」
 僕は若松さんの言葉に応えた。
「ああはならなかったでしょう」
「釜
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