暁 〜小説投稿サイト〜
古城
1部分:第一章
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トランドですな」
「あそこか」
 イギリス人だけあってそこがどうした場所かは卿も詳しく知っていた。
「ネス湖には何度か行ったがな」
「ネッシーは御覧になられました?」
「残念だが」
 それはないというのだった。
「ただ。いるとは思っている」
「いますか」
「私個人としてだがな」
 こう前置きしたうえでまた話す。
「あそこにはまずいるだろうな」
「いればいいですがね」
「あの写真だけではない」
 有名なトリックだとわかったあの写真のことだ。しかし彼はあれがトリックだったとしてもネッシーはいると主張しているのだった。
「他にも多くの写真に目撃例があるからな」
「だからですか」
「この目で見ていないのが残念だがな」
 こう言うのだった。
「だが。間違いなく存在している」
「ではそれを見に行かれますか」
「いや、それはいい」
 だがそれは断るのだった。左手を小さく横に振る。
「別にそこまでは」
「いいのですね」
「怪獣とは別のものを見たい」
 これが彼の考えだった。話の最初通り幽霊に興味があるのだ。
「幽霊をな。さて、それだとすると」
「いい場所がありますぞ」
 執事は彼に静かに告げてきたのだった。
「いい場所がか」
「はい。スコットランドにはまだ古城が多く残っています」
「うむ」
 イングランドと比べても多いようだ。しかもスコットランドは山岳地であり森も多い。霧の都ロンドンにも幽霊にまつわる話は多いがそれ以上に森と城のスコットランドには多いのだ。卿はそのことを考えるのだった。
 そしてそのうえで。彼は言った。
「では城を巡るか」
「幽霊の出る城をですね」
「幾つか回りたい」
 これが彼の考えだった。
「それで手配してくれるか」
「畏まりました」
 執事は卿の言葉を受けてこう述べた。
「それではそのように」
「うむ。頼むぞ」
 こうして彼はスコットランドに幽霊の出る城を巡り旅をすることになった。旅にはいつも通り執事も同行し男二人主従の旅となった。まずは城を幾つか巡った。不倫の疑惑の末に殺された夫人だの戦で攻められた騎士だの陰謀で殺された領主だのの話であった。卿はそれを見聞きして山地を通る鉄道の中で執事に声をかけた。二人は特等席に座っている。そこで窓の向こうに見える緑の森と青の河を見ながら彼に話していた。

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