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大正牡丹灯篭
5部分:第五章
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第五章

 社長は会社の車に彼を乗せた。そうして街から離れた静かな場所に彼を連れて行った。そこは墓地だった。藤次郎はその墓地を見て怪訝な顔で社長に尋ねた。
「あの」
 車から降りる時に社長に問う。社長は車の後部座席で彼と並んで座っていた。
「ここは」
「降りればわかる」
 社長は岩の様に険しい顔で彼に告げた。
「降りればな」
「はあ」
「わかったらすぐに降りるんだ」
 また彼に言う。
「いいな」
「わかりました。それじゃあ」
 彼は社長の言葉に従うことにした。そうして降りる。降りて社長に連れられて墓地の中を進む。左右に青や黒の墓石が並んでいる。彼はそれを見ているうちに得体の知れない不吉なものに心を支配されていき不安に包まれていくのであった。
 そうしてその不吉さと不安さが頂点に達した時。彼はある墓石の前にいた。社長はそこで足を止めており彼に顔を向けていたのであった。
「いいか」
「ここは」
「見ろ」
 社長は墓石に顔を向けて藤次郎に告げた。
「この墓石を」
「墓石をですか」
「そうだ。わかるな」
 見ればそれは田村家の墓石であった。そうしてそこに書かれている名前には。
「えっ・・・・・・」
「わかるな。わしの言いたいことが」
「あの、社長」
 藤次郎は驚きを隠せずに社長に対して言った。その顔は強張り今にも割れそうな程であった。
「これは一体」
「見た通りだ。代々短命だと言ったな」
「はい」
 それははっきりと聞いていた。だからこそ頷くしかなかった。
「そうですけれど」
「ならわかる筈だ。麗華さんもまた労咳で亡くなっているのだ」
「しかし」
「会っていると言いたいのだな」
 また藤次郎に顔を向けて言う。
「そう言うと思っていた」
「私は本当にあの方と」
「だからだ」
 社長の声はさらに沈痛なものになっていた。だがそれ以上に恐ろしいものを見ている顔になっていた。それは藤次郎にもわかった。
「麗華さんは間違いなくこの世の者ではない」
「この世の。それでは」
「死霊だ」
 社長は真っ青な顔で述べた。
「間違いなく死霊だ。そして御前はその死霊に取り憑かれているのだ」
「死霊に」
「死霊に憑かれれば死ぬ」
 昔からよく言われている言葉である。これは社長も知っていたし無論藤次郎も知っていた。それで二人は強張った顔をしているのであった。
「御前はこのままだと」
「しかし麗華さんは」
 彼は強張った顔のままで社長に言った。声は震えていたがそれでも言うのだった。
「悪い人ではないと言いたいのだな」
「そうです」
 彼が言いたいのはそれであった。
「ですからそれは」
「それは彼女の考えとは別なものだ」
 しかし社長はこう彼に告げるのであった。無念さを出た声で。

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