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大正牡丹灯篭
3部分:第三章
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第三章

「如何でしょうか」
「私なぞでよければ」
 そうして。こう答えた。
「お招き頂きとうございます」
「有り難うございます。それでは」
 麗華は彼のその言葉を聞いて穏やかな笑みになった。そうして述べるのであった。
「どうぞ。こちらに」
「はい」
 彼女の後ろについて行く。そうして夜の横須賀を暫く二人で歩いた。
 横須賀には数年いたがそれでも彼の知らない道であった。彼は道を進みながらこんな道があったのかと心の中で思っていた。
 そうして歩いていると。やがて洋館の前に来た。夜の中に赤い屋根と白い壁のある洋館が浮かび上がっていた。彼はそれを見たのであった。
「ここです」
 麗華はその洋館を指差した。そのうえで彼ににこりと笑ってきた。
「粗末な場所ですが」
「いえ、そのような」
 藤次郎の目にはとてもそうは見えなかった。かなり立派な洋館である。大きいだけでえなく夜の闇の中に浮かぶその外観は見事なものであり庭も奇麗に整っている。彼はそれを見て思わず目を止めていた程であったのだ。
「このような洋館が横須賀にあったとは」
「祖父の建てたものです」
 麗華はそう藤次郎に答えた。
「もう家にいるのは私と僅かな使用人だけですが」
「そうですか」
 その言葉を聞くと少ししんみりとなる藤次郎であった。
「失礼しました」
「いいです。本当のことですし」
 だが彼女はそれをよしとした。
「それよりですね」
「はい」
 そうしてまた彼に声をかけてくる。
「少しですがお酒やお料理もありますので。どうぞ」
「宜しいのですか?」
「はい。私もお話しする相手が欲しいと思っていましたから」
 穏やかな笑みになって彼に述べた。
「ですから。御願いします」
「わかりました。それでは」
 彼は頷いてそれに応えた。そうして彼女に連れられてその洋館に入るのだった。洋館の中も見事な内装であり彼はそれにも目を奪われた。そうしてその日は酒と彼女自身を心ゆくまで味わい、楽しんだのであった。彼にとっては心から満足できる夜であった。
 朝まで二人だった。朝出勤する時にそっと横にやって来た麗華に囁かれた。
「今夜も。来て頂けますか」
「今夜もですか」
「はい。横須賀の駅の前でお待ちしています」
 国鉄の駅である。そこから一直線に大きな道路が開けている。これはこの街が海軍の街でありそれに基いて整備されてきたからである。
「ですから。御願いしますね」
「わかりました」
 もう彼には断ることができなくなっていた。昨夜でもう彼女から離れられなくなっていたのだ。そうしてその夜も彼は彼女と会った。その次の夜もそのまた次の夜も。彼は麗華と二人きりの甘い夜を過ごしたのであった。
 そうした日々が一月程続いた。やがて彼は少しずつやつれてきた。
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