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暴れん坊な姫様と傭兵(肉盾)
03
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 エンリコ・ヴェルター・ファーン伯爵から呼び出しを受けた。

 一言で言えば、名前の長さで短くないかもしれないが、実際は短いフレーズ。
 だけど、その事の内容自体は庶民からすれば山の如き大事だ。

 伯爵が…わざわざ自分に面会…そんな電撃のような唐突(とうとつ)な申し出に衝撃(しょうげき)を受けた。
 この時、自分はかなり動揺(どうよう)して(いちじる)しく放心に近い状態にあった。
 迎えに来た兵士に言われるがままに後ろをついていく間、その途中にある町並みの事はあまり覚えてない。

 兵士に連れられて詰め所からしばし歩いて、気付いた時には立派な屋敷へと辿り着いていた。

「ぅ…うわぁ〜……流石、伯爵のお屋敷……」

 放心していた頭は軽く現実に戻ってきて、その屋敷の存在感は否応なく突きつけてくる。
 住む世界が違うようなその壮大(そうだい)さに圧倒され、門に入った時点で膝まで笑い始めてきた。

 うん、すごくビビってます…わかりやすいほどに。
 だけどそれも仕方ない、権威(けんい)を持たない(つつ)ましく暮らす人なら、自分が感じている引け目を理解してくれるだろう。

 伯爵…この爵位だけでもすっごく偉い人なのはわかる……この立派な建物を見るだけで、雲の上の人のような存在である事は想像出来ていた。
 そういう人らに雇われるのが傭兵の仕事の1つだけど…これまでの人生で口どころか、直接面会する事などなかったのに…頭の中が真っ白になりそうだった。

「(嗚呼…うまく喋れなかったらどうしよう…)」

 自分は口のうまさなど無縁のものである。
 この小市民的反応からして、会話どころか“対話”が出来るかどうかも怪しいものだ。

 それに…世の中には、よくわからない理由で断罪(だんざい)される不敬罪(ふけいざい)なんてものもあって、言葉一つ間違えただけで物理的に首を飛ばされるなんて話は珍しい事じゃない。
 そんな事を考えるものだから…背筋に薄ら寒いのが走ってゾッ、とした。

 脳裏(のうり)に浮かんだのは、自分自身の首と胴が泣き別れするイメージである。

「(信じていいですか? 信じてもいいですよね!? 顔も知らない伯爵様!?)」

 最悪の結末を想像し、恐怖に()られた自分は、エンリコ・ヴェルター・ファーン伯爵が温厚(おんこう)で心が広くて器の大きいお方である事を祈った。

 もはやそれは、被害妄想と大差ないものだ。

「おい何をボーっとしているんだ?」
「…ハッ!?」

 兵士の人に声をかけられて現実へと引き戻された。

 危うく権威(けんい)と不安の二重苦で現実逃避してしまう所だった…。
 うん…もう既に伯爵のいる部屋のドアの前にまで着いたよう
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