暁 〜小説投稿サイト〜
炎髪灼眼の討ち手と錬鉄の魔術師
”狩人”フリアグネ編
十三章 「宝具」
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籠城戦に持ち込めば相当な間、持ちこたえることが出来る。
 つまる所、本拠とはそういう物なのだ。


 俺は俯せになっている身体を起こして、周囲を確認した。
 拘束されていないのは、奴にとっての俺は、その必要すらないという事なのだろう。
 既に日は落ち、頭上の星空を霞ませるが如く、街並みが光を放っていた。
「何かの舞台―――、か? やけにボロボロだけど」
 周りを見渡すと、破れた丸テントに錆び付いたレール。朽ちたカートが散在し、アイスボックスには雨水が溜まっていた。
 舞台上では役者の代わりに整列しているマネキンが、この上なく不気味だ。
 このどことない趣味の悪さから、ここがフリアグネの本拠であることは疑いようもなくなった。
「遊園地……、じゃないな」
 遊具の対象年齢が低い。
 それに、舞台からは御崎市が一望出来る。
 遊園地が空中に設置されている訳がない。
 舞台の端から外を眺める。
「確か、大鉄橋の近くに空き家のビルがあったな」
 周囲の建造物とは頭一つ抜いて巨大な建物だった筈だ。
 ビル内部までは下調べをしていなかったが、周辺の地理は把握している。
 ちなみにこのビル、聞くところによると以前はデパートだったらしい。

 確かに地理的に見ても、街を見渡すには彼処が一番だろう。
 だからこそ、俺は敢えて此処に手は付けなかったのだ。
「まさか……、本拠にしてたなんてな」
 高所が故に周囲の警戒は容易で、さらに地下の食品売り場以外は無人。上部の人払いが出来てしまえば、設備を整える点でも問題はない。
 誰から見ても明らかに、拠点として用意したい場所だ。
 この街を敵が掌握している以上、既に敵拠点と化していると判断したため、俺は敢えて此処を調べなかった。
「結果として、敵本拠に踏み込む危機を俺は回避する事が出来ていた訳だ」
 自嘲して、舞台側に向き直す。
「そこに居るんだろ? フリアグネ」
 先程から感じていた視線の元に声を投げる。
「いやいや、気付いていたのなら早く声を掛けて欲しかったな。私はてっきり、嫌われてしまったのかと思ってしまったよ」
 そう言って、マネキンの群衆の奥からフリアグネは出てきた。
「生憎、マネキン軍団を眺める様な趣味はない。それに残念だが『昨日の敵は今日の友』って言えるほど、俺の心は広くない」
「それは残念だな。君を拘束していないのは、私からのちょっとした好意の証なんだが」
 好意の証―――、ねえ。
「見え透いた嘘は良くないな。どうせ俺程度なんか、拘束するに値しないって事だろ? 俺を今すぐ消すことなんて、お前にとっては造作もない事だしな」
 なかなか鋭いね、とフリアグネ。
「確かに、今ここで君を消すのは簡単な事だ。けどね、ただ消してしまうだけじゃ物足りないんだよ」

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