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渦巻く滄海 紅き空 【上】
九十一 交戦模様
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中にいる子犬の覚醒が近いと悟って、いのは小声でキバに助言した。

「アイツの身体は一つじゃないわ。さっきアンタが飛び出して行った時、辛うじて見えたの。背中から生えた腕がアンタを殴り飛ばしたのを」
「はぁ…っ?冗談だろ…」
「残念ながら冗談じゃないわ。そもそもアイツと対峙してから、ずっと違和感があったのよね。探れば案の定」
そこで、ぴんっと指を二本立てる。立てた二本の内、一本をゆっくりと曲げながら、いのは己の推察を述べた。

「最初はただの二重人格者かと思ったわ。でもそれなら、さっきの攻撃の説明がつかない。という事は、見た目は一人でも身体は二つと考えたほうがいいわ」
「…お前、だんだんシカマルに似てきたな」
若干うんざりした面立ちのキバを、いのは「失礼ね」と一蹴した。

「まぁだからと言って、まだ敵の能力が解ったわけじゃねぇ。ここは俺らが攻撃すっから、いのは観察しといてくれ」
完全に眼が覚めて、いのの腕から逃れるように飛び出そうとする相棒を見て取り、キバは兵糧丸を取り出した。

「起きたか、赤丸!早速だけど行くぞ!!」
主人の声に応じて赤丸が甲高い声を上げる。投げられた兵糧丸を口にし、【獣人分身】でもう一人のキバになると、彼らは左近に向かって同時に技を仕掛けた。

「――【牙通牙】!!」
高速回転での挟み打ち。一見有利に見えた状況は、直後一変する。


「あの女は参加しねぇみたいだし、二対二でちょうどいいじゃねぇか。なァ、左近?」
項垂れていた頭がゆっくり顔を上げる。左目を前髪で隠した顔が、同じ顔である左近に語り掛けた。
(なんだ、コイツ…!?)
捕まれそうになった腕をキバと赤丸は咄嗟に振り解いた。すぐさま距離を取る。

前以ていのの忠告を受けていた為、さほど動揺せずに済んだものの、目の当たりにすると驚愕を隠せない。
キバの表情に気を良くしたのか、右眼を前髪で隠した左近が嗤った。

「俺達は仲の良い兄弟でよ。普段兄貴の右近は俺の中で寝ているが、闘いの時は出てきて手助けしてくれるわけだ」
戦闘を見守っていたいのが左近の話に耳を澄ます。左近の眼が、こちらを注視する彼女を捉えた。
「右近は俺の身体の何処からでも手足や頭を出して攻撃と防御が出来る。こんなふうにな…――――【多連脚】!!」


刹那、右近の攻撃がいのを襲う。
迫り来る三本の足に、いのは両腕を交差させた。だが為すすべなく、吹き飛ばされる。
「いの…ッ」

キバが飛び出すより先に、いのの小柄な身が宙を舞う。切り立つ岩に背中を打ち据えた彼女を見て、左近はせせら笑った。
「足三本分の蹴りだ。効くだろ?」


だが直後、左近の見下すような声音が舌打ちに変わる。白煙と共に変わった木片に、「変わり身か…っ」と左近は顔を顰めた。
「ち
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