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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
88話
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 ビーム光が閃く。不味いと察知した全神経が肉体を駆動させ、バーニアを焚いた《ガンダムMk-X》が横っ飛びの要領で飛びのく。《Sガンダム》が放ったビーム砲の一撃は、クレイの視界の脇を過ぎていった。
 だが終わりではない。《リックディアス》を輪切りにしたあの一撃―――ビームがまるで意思を持った光の蛇竜のように真空を這うあの攻撃がくる。
 右腕のビーム砲からビームを照射したまま、サーベルを振る要領で腕を横殴りに振り回す。ぐにゃりと歪に形状を変えたビームが鎌鼬の刃となって横薙ぎになって襲い掛かる。
 食らえばそのまま両断される。刹那ほどの感慨を抱く余裕も無く、クレイは《ガンダムMK-X》の両足を振り上げると同時に上半身を背後に捩る。AMBAC機動に加えてスラスターとバーニアを焚き、先ほどの体制から一気に下方向へと急落下させた。
 視界の端で迸った光の帯が《ガンダムMk-X》の上半身すれすれを掠める。機体表面が焼ける幻聴に重なるように、全天周囲型コクピットの中に接近警報が炸裂した。
 左腕に握らせたハルバードでの迎撃―――そういう思惟が身体に命令した時には、反応としては愚鈍だった。
 彼我距離は既に零。その巨体に似つかわしくない速度で接近した《Sガンダム》のエメラルドの双眸が、《ガンダムMk-X》を、クレイを睥睨するように見下ろす。
 大きく振り上げられた左腕。将にクレイの身体をずたずたに引き裂きながら挽肉にせんと、4つの牙が蒼い燐光を放つ。
 あれを喰らえば一たまりもないどころの話ではない。反射的にバックパックのビーム砲を《Sガンダム》に向け、トリガーを押しかけ―――。
 そのまま減速すらせずに《Sガンダム》が《ガンダムMk-X》目掛けて突撃した。身体よりも遥かに巨大な玄翁で叩き潰されたような衝撃が打ち付け、それだけで意識が飛びかける。内臓のどこかが破裂したんじゃないかと錯覚するほどの鈍痛が全身の神経を焼き尽くし、不意に臓腑からせり上がってきた液体を吐き出した。
 もう、身体が持たない。普通の人間ならもうとっくに身体のどこかが千切れていてもおかしくない。
 操縦桿から手を離したい。視界一杯に広がる《Sガンダム》の姿を見るだけで心が折れそうになる。
 どうして自分がこんな目にあっているのだろう。ただ素直に健気に人生を生きていて、何も悪いことなんてしてないのに。なのに、どうして―――。
 弱気だ、と身体が責めるような声を出す。
 全く、その通りだ。それでも心の幽かな端の方で沸き上がったその声が心臓を鷲掴みにして離さない。
 操縦桿をにぎる手から意思が抜けていく。
 身体の生命の躍動が死んでいく。
 もう、意識を把持していることすら辛い。さっさと己を手放して、何も考えず何も怯えない静かな世界に還ってしまおう―――。
 遠のく、意識の中。
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