87話
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いい。後は無事に彼女を、エレアを出迎えればそれで終いだ―――。
拍子抜けと言えば拍子抜けだ。だが、無事に事が済むならそれで、いい。そんな当ての無い楽観を砕いたのは、(少尉には)とやはり録音したテープのような、モニカの声だった。
(―――少尉には、《Sガンダム》と戦闘して、なるべく損傷させずに確保してもらいます)
その声の意味が、わからなかった。
意識を保つので精一杯なのだ。だから、モニカが口にした言葉の意味が難解で理解できなかったのか―――そんなはずはない。
彼女―――モニカは口にしたのだ。《Sガンダム》と―――彼女と、エレアと戦え、と。
(彼女が乗っているという予測は《Sガンダム》からフランドール中尉のものと思われるバイタルデータが送られてきているからですが、そもそもミノフスキー粒子の影響下で遠く離れたMSの詳細なデータを確認することは不可能です。今、《Sガンダム》の情報を手に入れられるのはフランドール中尉が一定以上の出力でサイコ・インテグラルシステムを起動しているためにサイコモニターで確認できているからです)
早口で言って、そこで声が途切れる。
どれほどの沈黙だったろう。数十分にも思えるほどに―――その実、物理的時間経過は10秒も無かっただろう―――長い停滞だった。
誰かの息遣いが無線越しに心臓を叩く。
(フランドール中尉は―――)彼女が咽喉を裂くようにして声を漏らす。(恐らく中尉の奪取時にサイコ・インテグラルシステムを強制発動させることで意識を喪失させ、なんらかの薬物で昏睡状態にすることで同時に発生する破壊衝動を抑えられたのだと考えられます。それが今は薬物の効果だけが消失した状態―――つまり、破壊衝動だけが顕在化している可能性が高い。彼女は今、敵と味方の区別がつかない状態にあります)
ですから、と。そう、口にした少女の声が揺れる。その声色に決然を、そして微かに躊躇いを残した声が、耳朶を触る。
(ですから、少尉に―――サイコ・インテグラルシステムに適応可能な少尉にお願いします。今のフランドール中尉と戦い得るのは少尉だけです)
少女の声が鼓膜を抜け、頭の中を満たしていく。確かな水圧を持った音が脳みそを圧潰させていく。
あぁ、やはりそうなのだ。先ほどの言葉、あの白い『ガンダム』―――《デルタカイ》?―――に乗っていた、なんだか知り合いな気がするパイロットが口にした。
お前の機体にはサイコ・インテグラルシステムが搭載されている。お前はニュータイプだから、それに適応している―――。
それは、認めた。認めたと思っていた。
だがやはり、心の中ではまだその事実は誰かの言った些末事と思いたがっていた。
己の人生。それを全て己の力で切り開いてきたなんて思ってはいない。そんなことを無頓着に信仰できるほど青くも
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