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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
84話
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 黒白の常闇赤い双眸を静かに揺らし死んだように四肢を伸ばしたまま遥か天高い深海の中揺籃の赤子のように不定の表情のままに揺蕩っていた意識が途切れるここがどこなのか自分が何のためにいるのかそんな自明の理由すら()くした漆黒の巨躯は当てもない視線をどんよりと彷徨わせたいやそれは違うなと巨人はないしはその胎の中の人間は思った自分が何のためにいるのかそれだけは身体(しんたい)はわかっているだからそのために黒い巨人ないし白い少女はただ、それの到着を、待っ、て―――。
 巨人と少女は何の変化も無い汚泥のような世界で何かが律動したのを知覚した目あるいは耳あるいは鼻あるいは―――とにかくそれは確かに何かの鼓動を感じたのだ鼓膜を叩く接近警報の音少女はぶちりぶちりと持続しないあるいはぐちゃぐちゃになった世界感覚の中彼女の知覚の先端に何を明敏に捉えた。
 閃bの翼を異様に広げた白と黒の機影―――MSA-0011X。
 その姿を捉えるや死んだようにぴくりとも動かなかった漆黒の巨人が身動ぎするバーニアのちろちろとした炎を焚いて白い巨人の方向上方6時の方向へと反転する白亜の巨人も黒い巨人との相対距離を把握し主脚を前に降り出すとともにスラスターを逆噴射させた数km/秒の速度から数km/時へと一気に減速し黒い巨人の前でぴたりと静止する白亜の巨人の面持は漆黒の巨人と似て凛然としたものだった孔が穿たれた様な2つの眼が《巨人=少女》を見据えると白い巨人はだらりと四肢をだらけさせた。
 腹部の黒くコーティングされたハッチが持ち上がる。誰も乗っていないコクピットからは全天周囲モニターの光が、どこか、寂しく、瞬いていた。
 奇妙な光景だった。既に、世界に定位し安らっている存在の中に、暗く蠢くミクロコスモスが覗いている。観ているだけでそこに吸い込まれてしまいそうだ―――。
 何かが轢断する音が鳴る。最初は微かに、しかし、すぐにその断絶する音が連続し、意識が途切れ途切れになる。
 黒い巨人の真っ赤なコクピットハッチが開く。
 そうだ《彼女=私》は行くのだ少女は己の意思を実存を守るために行くのだと巨人は時間の断絶の中、朧に思ったそのために彼女は世界へと超越するためにその実存開明の記号に到来に手を伸ばしたのだ。
 意識が次第に消えていく。先ほどまで存在していた汎-私が消滅し、あの黒い実存の孔の中へと流出していく。
 コクピットから少女-彼女が這いだし、その赤い目に白亜の巨人を満たす。
 少女は《ゼータプラス》のコクピットハッチを蹴ると、真っ直ぐに《Sガンダム》のハッチに取りつく。縁の部分に手をかけて身体の移動を止め、機体の装甲を蹴りながら、鉄棒でもするかのようにしながらコクピットの中へと足先から滑り込んだ。
 滑り込んだ勢いをコクピット周りの計器を掴みながら殺し、自然な動作でシートに
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