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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
80話
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。独り言だ」
 ふーん、と素気のない風にプルートが呟く。
 余計な思案だった。前線の兵士が裏で起きている出来事に全く無関心なのは問題だが、
 かといってまさに前線で目の前と異なる出来事を考えていては命がいくつあっても足りはしない。安堵を覚えるのは作戦が終わってからだ。
(こちらローゼマリー、第162MS中隊出撃準備せよ。繰り返す、第162MS中隊出撃準備せよ)
「こちらヴォルフ01了解。出撃する」
 微かな振動音と共に視界がスライドしていく。通常の艦と違い、ザンジバルU級『ローゼマリー』のカタパルトはMS1機がようやく潜れるほどの『小窓』まで主脚歩行を行い、艦の両側に設置されたレバーを片手で保持し、カタパルトに片足だけを乗せるという他の艦艇のカタパルトとはやや異なった方式をとる。マクスウェルもそれに従い《リゲルグ》の左腕にレバーを掴ませ、左脚部をカタパルトに固定させた。
 宇宙(そら)に瞬く光。ヒト種が何ゆえか所有する知への意思の最果て。
「ヴォルフ01、出るぞ」
(大尉、ご武運を!)
 フットペダルを踏み込むと同時に電光掲示板の数字が0をカウントし、リニアカタパルトの作動に合わせるように前面から負荷Gがのしかかる。一度鈍い振動が身体を打ち、真空に投げ出されるや身体を奇妙な浮遊感が包む。
 全天周囲モニターに包まれた世界は、まるで真空の中に身一つで投げ出されるかのようですらある。
背後から追従してくる2機。ディスプレイに表示された背後の映像と通信ウィンドウに映る2人の顔を重ねたマクスウェルは、何も言葉を発さず、口から洩れかかる言葉をかみ殺すように黙然としながら、視界の先に広がる常闇を睨めつけた。
 ※
(こちら『アクロポリス』、ラケス応答せよ。繰り返す、ラケス応答せよ)
 聞き知った女性のオペレーターの声は任務中ということもあって冷静さを纏わせていたが、レーザー通信越しの彼女の声色には普段の高い声が混じっていた。
「こちらラケス、『銀の弾丸』『白雪(スノー)(ホワイト)』は確保した。これよりアクロポリスへ帰投する」
 (本当ですか!?)言って、無線の向こうで沈黙が流れた。そうして一度咳払いをしてから、(アクロポリス了解。これより貴官の着艦指示に入る、待機されたし)という畏まった声が返ってきた。
 別に喜んだっていいじゃないか、と思う。折角作戦が成功に至ったのだから喜ぶべき時は喜ぶべきだ。
 もちろんこの作戦で喪失した人員がいるのも確かだ。だが、だからこそ死んでいった人間たちのためにも楽しい、という感情を捨てることは出来ないのではないか―――。
 ガスパールは、ふと奇妙な違和感を覚えた。昔は『こういう風』だっただろうか―――? だが『こういう風』とは何のことだろう? 結局身体中に鬱積するこの微かな感覚が何なのか理解でき
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