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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
77話
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 男は息を吐きながら、操縦桿を握る力を緩めた。ディスプレイに映る前方をフォーカスした映像には、崩壊しかけたビルの中で蹲るようにするダークブルーの《ゲルググ》と、僚機の《ジェスタ》の姿があった。
 シールドと右腕の喪失は、たかが《ゲルググ》如きという侮りへの報いである。全く予定外に出現した敵機の存在が《ゲルググ》という外見を纏っていたことに惑わされた。《リックディアス》4機を相手にそれを撃破するという技量を見せつけられて、警戒はした。だが、己の乗る機体性能の優位さを過信した―――。
 それがどうだろう。侮りこそあれ、不要な油断など持ち込まなかったうえで、味方の《ジェスタ》は戦闘不能に追い込まれたのだ。
 男は単に周囲を警戒していただけなのだ。援護し、仲間の危機を救えたのは偶然以上の何物でもない。コロニー内であるのにビーム砲を使ってしまうほどに、あの黒い《ゲルググ》の存在の圧迫感は異様だった。
 ―――広義の意味で、男は自分がテロルの行使者であるという自覚を持っていた。大義があれば人殺しだって出来る、という命題に、極めて説得力のない論理の飛躍があることを知っている。それは己の我儘のためのデパートで泣きわめく子どもと同位の存在でしかない。男にとっては安売りされた陳腐な免罪符に満足することなど、正義に悖るものを正義と騙ることであり至極不愉快なだけだし、己が全くもって擁護不能な秩序の破壊者であることをありありと理解していた。外道を以て道を説くことは、その道を外道に堕とすことに他ならない。外道は何をしても外道。それ以下のものではあり得ても、それ以上の存在にはなり得ない。
 それでも男がトリガーを引いたのは、己が為さねばならぬ義務のためだった。人は存在論的に人間であるが故に、己の場所からの要請に応えなければならない時がある。己の立つ場所―――それは生まれであったり、関係性の間柄であったり、時代であったり―――が、時に個人の内なる人の感情を超え、言葉無き理性の呼びかけを行う。男はその外的コントロールに自律的に従っただけだった。己を外道畜生道の身に窶すことなど、元より承知している。
 鼻で笑った。
 嫌に感傷的だ―――それだけ大事を行っている、と自分に呼びかけ、操縦桿を握りなおした時だった。
 (ハンター02!)周囲を警戒していた他の仲間の声が耳朶を叩く。その逼迫した声に思わず瀑声のように問い返した時には、手遅れだった。
 味方機を示すブリップが消失する。同時に、ディスプレイにロックオン警報が立ち上がり、甲高い警告音が鼓膜を叩いた。
 敵機の方向―――上。シールドを構えながら空を振り仰いだ男は、見た。
 雪の降る漆黒の空。
 人工の月影が微かに雲間から刺し、純白の光を受けて照り返る。
 人型の何かが宙に浮かんでいた。月光を受け、黒天の中で翼を織りなす
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