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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
71話
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ケス』は操縦桿を握る力を強くし、薄く目を閉じた。
 躊躇―――ある。決して理想や情熱という言葉だけでは消せない、直観的な道徳意識。己の内に存在する法廷の検閲官のリアルな体験。
 だが、その躊躇の感情に従うわけにはもういかない。その見果てぬ夢は、『ラケス』一人のものではないから―――。
 ゆっくりと開眼する。歯をきつく食いしばり、握った操縦桿を操作し、意思を満たした(ガンダム)が翼を屹立させる。
 スロットルを開放し、フットペダルを押し込むと同時に爆発的なスラスター光を迸った。宇宙(そら)と異なり、重力を受けるコロニーの中では相応の重さがある。それでもその猛禽(ラプター)は重力など知らぬとばかりに、悠然とした素振りで蒼穹へと飛翔した。
 身体にかかる負荷を感じながら、ガスパールの視線は眼下の大地、のんびりと草を食む牧羊の群れを一瞥した。群れを成して食事をする彼ら彼女らを眺れば、ふとガスパールは気づいた。
 柵に覆われた牧草地の中、群れから離れてぽつねんと青々とした草を食む一頭の羊が、いた。
 だが、それも玉響の出来事だった。すぐに視線を戻したガスパールは、数十km先にあるコロニーのドッグを真っ直ぐに見据える。慣れない重力の感覚に操作を手こずりながら、ガスパールは常に抱き続けた疑念が惹起するのを感じた。
 あの男は、どう思うのだろう。
 ふらつく機体、揺らぐ視線の中、その遥かに先に栗色の髪の男の姿が過った。
 ―――過った感傷は、燃え盛る蒼い閃?の中に焼かれていった。
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