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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
65話
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 クレイ・ハイデガーの人生の記憶というものを形容詞的に表現するならば、それは黴臭そうなと言えるかもしれない。
 彼の人生の端緒は一年戦争終結から1年と経たない年、UC.0080年の、9歳か10歳ころの記憶から始まる。当時としては地球上でも各コロニーでもごろごろ居た戦災孤児のうちの取るに足らない1例でしかなかった少年は、地球連邦軍に所属するとある女性に引き取られたことがその人生の開闢で、少年の記憶もまたその瞬間から開始されたといっていい。
 ここで、幻想的な原初の記憶から始まり、どこか意味深い物語の開始を暗示する―――などということは無い。名無しの少年の最初の記憶は孤児院に居た綺麗なお姉さんの大きくはないが柔らかそうなおっぱいだった。母親だった人の印象も、綺麗な人だなぁというなんとも俗物な考えでしかなかった。
 その綺麗な女の人は、独り身だった。正確には、一年戦争の折に戦死した夫が居たらしい。彼女がクレイを引き取った理由は、ただ子供が欲しかったからだった。じゃあもっと小さな子供を引き取ればいいのに、と思ったが、彼女曰く、自分は夫にほんのちょっとだけ似ていたからだ―――と言っていた気がする。
 女の人は、家に訪れた人によればとても腕のいいMSと呼ばれる兵器のパイロットらしかったし、事実そうだった。頭もよく、連邦政府の偉い人と懇意にしたりもしていた。優秀な人だったのである。
 そんな養母に対し、少年は、言ってしまえば平凡な能力しかなかった。スクールの成績は下から数えたほうが早かったし、運動能力はやや高かった程度だった。顔も凡庸の一言で、身長はまあ―――普通よりちょっと高いくらいの話だ。重ねて言うが、畢竟して彼は凡夫だったのである。
 当初はそれでも別に気になどしなかった。周りと同じ水平に並んでいても、特に支障は無かったのである。
 問題が生じたのはジュニア・ハイ・スクールに入ってからだった。彼は、異性という存在に初めて固有の重力磁場が備わっていることを理解したのである。
 少女に愛されるにはどうしたものか。水平的な人間では、自分を選んでくれる必然性が無い。理由がない。彼が有していた評価は概して優しいだけであり、その評価は、言ってしまえば取り得の無い人間に対して、周囲の人間がなんとか取り繕うために苦肉の策として考慮された思慮深いく、優しい、死刑宣告なのである。
 己のあまりに水平的な存在様態、それは己の存在根拠の貧困をありありと突きつけた。
 だから、彼は何か人より超えようとした。人より何かが出来れば、自分は誰かから注目を浴びるということであり、注目を浴びるポイントはすぐさま自分を売り出すセールスポイントへと転換し得る。酷く打算的であるが、合理的には間違ってはいないように思われた。
 ―――幾許かの論理の飛躍をしながらも、彼が選んだ水平の突破、
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