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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
59話
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 言い吃ったエレアが身を縮こまらせる。どう言ったものか、そもそも言うべきことなのか。まだ答えが出ていない―――そんな風に見えた。
 ジゼルはとりあえず待つことにした。そもそも、エレアがこうしてプライベートな話を持ち掛けようというのが珍しいのだ、言い慣れていない彼女に発言を煽る必要はない。人には人の時間感覚があるのである。
 十数秒。数十秒。数分ほど経過し、そろそろ十数分という数え方になろうという時になって、エレアはようやく顔を上げた。
「クレイのこと、なんだけど」
 エレアは、言って表情を暗くした。
 あぁ、なるほど―――ジゼルは背凭れに身を預け、視線を斜め上に持ち上げた。
 あの実戦の後、クレイは普通に戻っていた。
 年齢に不相応に静かな青年。寂れた教会のような雰囲気のその人は、薬物と強度のトラウマによる精神的外傷を2週間で克服し、部隊に復帰していた。笑う時は笑うし、MSの操縦技能は依然と同じに回復している。治療に当たっていた医師はその回復ぶりに目を白黒させていたらしい―――が。
 エレアは過敏な少女だった。その資質故にか、人の心の機微に反応する。
 ジゼルも、クレイが依然と同じに戻っているとは思ってはいなかった。正確には、近頃どうにもクレイがふさぎ込みがちだったことが気になっていた。ジゼルはそこまで人の内面を気に掛けるほうではないのだから、エレアは猶更そういうのを感じてしまうのだろう。
「やっぱり、クレイは本調子じゃないのかぁ」
 腕組みする。言ってくれればいいのになぁ、と思いながら、そういう質の人間でもないかと思い直した。
 いかにも謙虚で誠実そうだが、その実自尊心とそれを裏打ちする努力に誇りを持つエリート。もちろん、個人的パーソナリティをとやかく言うつもりはない。人の性格が良いか悪いかの判断など、チョコパフェが美味しいか美味しくないかの真偽判断を議論するくらいに無意味で無価値なことである。
 ともかく、彼はどちらかと言えば一人で抱え込んでしまうタイプの人間であるということだ。
「やっぱり変に言わない方がいいのかな―――その、嫌だと思わないかな?」
「うーん、どうだろう……」
 腕組みしたまま、眉間に皺を寄せた。
 ずけずけと人のプライベートに踏み込むのは単なる愚か者である。一方で、プライベートを全て内側にしまい込めばいい、というのも、単なる冷血でしかない。プライベートとは、共訳可能な出来事に共訳不可能の仮面を被せて擬制とするための言葉ではないのである。
 それじゃあ、その基準はどこにあるんだという話では、あるのだが。
「そうさなぁ……まぁ、待ってるよって、言ってあげたら?」
「待つ?」
 エレアがころんと小首を傾げて目を丸くした。
「なんていうのかなぁ―――まあ、自分がオープンであることの態度表明みた
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