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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
56話
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 赤毛の男は、右手を口元に当て、手慰みに頬の肉を強く揉んでは緩めるを繰り返し、執務室の男の話を聞いていた。時折力を入れすぎ、内側の頬の肉が歯に当たる。その度に、その報告に来た男が恐々と身動ぎしていることに赤毛の男は気づいていたが、やめる気も無かった。それくらい赤毛の優男は苛々を感じていたのである。
「―――つまり、彼らは失敗したと」
 長々とした報告を終えた男に、赤毛の男―――『エウテュプロン』はただそれだけで応えた。
 は、と黒いスーツに身を包んだ男が肯く。溜息が漏れそうになるのを抑え、椅子に寄りかかった男は静かに瞼をおろし、瞑目した。
 目標の捕縛には失敗―――それだけを取り出せば、結果は失敗なのだろう。だが、と目を開けた『エウテュプロン』はマホガニー材の仰々しいデスクの上にやや不釣りあいな様子で佇む、銀色の無機的で飾り気のないパーソナル・コンピューターのモニターを目にした。
 黒い《ゼータプラス》。《リゲルグ》と近接機動格闘戦闘をするその機影は、ただの《ゼータプラス》ではない。
その黒々とした存在の隙間から、神々しいとすら呼べる蒼い燐光を幽らめかせた姿が網膜に強く焼き付く。
「まぁ、そもそも捕獲出来れば良いくらいにしか思っていなかったからね。本来的にはこれが見られただけでも良かった」
 平時の声色で、微笑を浮かべた男は回転式のチェアをくるりと回す。
 とあるサイドの首都として建設されたコロニーでも、まさに市街地に建つ高層ビルの上層階から眺める下界を目にしながら、左手を右の腋に回し、それを台座にでもするように右腕を載せ、右手で己の口元を掴んだ『エウテュプロン』は、背後に棒立ちする男には見えないようにして、眉と眉を相談させるように皺を寄せた。
 右手の中指で左頬の頬骨を一定の調子で軽く叩く。組んだ足を少しだけ揺らす。身体を伝った振動が脳みそに響いていく。
 内心舌打ちした。以前の「あれ」が効いている恐れもある。そもそも、あまり自分たちの手の内を世界に晒すには時期尚早ではないか―――。
 ふと目を落とす。片手だけで腕を組むように胴体巻かれた左腕の腕時計の時計を目にした『エウテュプロン』は、慌てて―――とはいえそれを身振りで示すようなことも無くゆっくりと椅子を正面に戻した。
「報告ご苦労。これからも励んでくれ」
 黒いスーツの男が身を正し、堅苦しい声を出す。型通りすぎるその動作も、初々しさ故と思えば感じるのは期待である。『エウテュプロン』も立ち上がり、デスクを回って男の前に立つ。小柄な『エウテュプロン』よりも背も高ければ肉付きも牢乎な男は、緊張気味に身体を強張らせた。その男の腕を取り、『エウテュプロン』は男の手を固く握った。
「君のような若い存在がこれからの世の中を作っていくのだ。新たな世のため、君の尽力を期待するよ」
 口を堅
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