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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
55話
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ストリバースし、相対距離を引き離していく。
(うーすみません……私のせいで)
 機内のカメラでも壊れているのか、エイリィの顔色はうかがえなかった。
「構わん。貴様というリターンの大きさを評価しただけだ」
 エイリィの謝罪の声に再び声を返しながら、マクスウェルは流れ着いた《リゲルグ》を両腕で抱える。ごつん、という鈍い音と衝撃とともに、マクスウェルはやはりほっとするものを感じた。
 甘い、のだろう。だがその甘さがエイリィを死なせずに済んだのだったら、悪くはない。だが、散った部下も、いる。瞑目し、再び目を見開いたマクスウェルは声を固くした。
「アーレ・ヴォルフ、帰投するぞ。目標エリアまでは無線を封鎖しろ」
 猛禽の翼の如き肩からスラスターを迸らせた《リゲルグ》を先頭に、6機のMSが音も無く星海を泳いで行った。
                    ※
「そうですか―――」
 オペレーターの報告に、アヴァンティーヌはヘルメットのバイザーを開けた。
 ECOSによる敵拠点の制圧完了の報告に、ブリッジ全体に安堵の色が伝播していく。流石精鋭というだけはある―――その浸透に際し、恐らく彼らに認識された生命体全てが屠殺されたであろう。彼らが投入された理由にビスト財団が絡んでいるというだけで、その一見無為な殺戮も合理的帰結と判断される。だが、今はそんな事実はどうでもいいことだ。
 ただ、触れてはならぬものに触れてしまった。だから、主の裁きの元に斃れた。それだけの、ことである。アヴァンティーヌはフランス出身の血脈の人間だが、祖父は敬虔なユダヤ教の信徒だった。素振りは見せず、心の中だけでアヴァンティーヌは厳粛なる主への祈りを捧げた。
「警戒レベルを第二種警戒態勢のまま維持。警戒は怠るな」
 参謀の鋭い声が飛ぶ。了解の声と共に復唱する声が上がるのを耳にしながら、黒髪に白いものが混じり始めた50歳の艦長は、遼遠に墓標のように浮かぶやわらかな残骸を遠く眺めた。
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