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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
45話
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消え失せてしまう―――それは他人事ではないのだ。もちろんMSパイロットを志した時点で、そうした未来を思い描いたことは何度もあった。だが、今おかれた状況は、かつてとは全く違う。実感を伴った虚無への還元が眼前に立ち現われているのだ―――がちゃがちゃとスプーンが食器に当たり、耳障りな音を立てた。
「おい、大丈夫か? 顔色悪いぞ」
「あぁ、大丈夫―――」
 気遣う攸人の声に応じ、顔を向けたクレイは自失した。
 攸人の顔色もすっかり青ざめていたのだ。忙しなく耳障りな音を立てているのはクレイだけじゃなく、攸人もまたフォークを持つ手を震わせていた。
 目が会う。困惑したように攸人はたじろぐと、ぎこちなく表情をひきつらせた。
 いつも通りの表情に見えたのは、単に自分の観察力が乏しかったからだ、とクレイの悟性は理解した。
「俺ら、実戦に参加するんだよな」
 ああ、とクレイはほとんど動作も無く頷いた。
「俺―――人を殺すんだよな」
 クレイは、発声の仕方を忘れた。アサリの貝殻を弄り、丸々と太った貝の身をフォークに突き刺すと、虚ろな瞳でその肉片を眺めた。
「軍人になるって決めたから覚悟はしてたよ―――でもいざ本当に殺すんだ、と思ったら俺―――」
 クレイは、ほぼ無意識的にもりもりとクリームを乗せたパンケーキを口に運んだ。
 それが、攸人の『考え事』だったのだろう。クレイも、殺人を考えなかったわけではない。だがそれより、自己喪失の恐怖しか頭になかった。
 碌に味のしない、まるでゴムに温いボンドでも塗りたくったようなそれを咀嚼した―――。
「細胞の中身を見たことはあるか?」
 攸人が顔を上げた。
「まぁ俺も肉眼で見たわけじゃないんだが―――昔テレビで放送してた教育番組で、拡大したイメージCGで見たんだ。どんなんだったと思う?」
 攸人は首を横に振った。なるべく、クレイは表情を和らげようと努めることにした。
「核がでけー恒星みたいになっててさ、その周りにぽつぽつある細胞小器官が惑星みたいになっててさ。宇宙があるって思ったんだ。なぁ、細胞1つの核の中に折りたたまってる染色体を伸ばすと何mあると思う? 2mだぜ! んでその細胞が60兆個もあるんだ。細胞の中の染色体全部を繋げると地球と太陽の間何往復できる? 300だ、300」
 早口で言い切る。きょとんと目を丸くしてクレイを眺める攸人に、クレイは固い表情筋を無理に緩めた。
「まぁ何が言いたいかって言うとだ。人間の身体ん中にはそれこそ壮大な宇宙(ミクロコスモス)が詰まってるんだ。人間は宇宙なんだ、と思ったとき、俺はビックリしたよ―――そして、人間てなんて凄いんだろうって思ったよ。科学の発展で人間は物理的なヒトでしかなくなると昔は言われてた―――そして実際そういう見方は今でも根強いけどさ。でももしかした
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