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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
31話
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ール自分の失墜に繋がるという心臓の蠢動を感じてしまう。むしろ良い兆候、と捉えたい。程よい緊張感はむしろプラスになるはずだ―――。
 『イレギュラー』も当面は敵ではない。まさか彼らが動いているとは思わなかったが―――だがなるほどと思うところがある。貧乏人(ネオジオン)どもがどうやってあのクラブ・ワークスのアーティスティックかつプラトニカルな設計図を現実に昇華させるのかと思ったが、『彼ら』が金を出すというのなら理想は形になり得よう。
 しかしそうなると『彼ら』の要求は何だ? 技術力の収集―――それでは釣り合い取れない。《クシャトリヤ》だけならともかく、《スタイン》の強化モジュール一式の資金まで出すとなると―――。
 デスクの上のPC画面に目をやる。東アジア・カトマンズ基地に潜ませたインフォーマーからの報告だった。
「―――悪いが、財団と本格的に矛を交える気はないのでな」
 男は液晶画面から目を離し、PCの電源を落とした。最高級のスーツを着こなす男は立ち上がると、緩慢な動作で窓際に立った。
 フォン・ブラウンの市街を眺める。宇宙でも絶え間ない発展を続けた数少ない街。ここが月の大地の下にある街である、という情報にはもはや新鮮味を感じない。男にとって、この月都市は第2の故郷であった。
 街の遠くに佇む建築物が目につく。アナハイム・エレクトロニクスが出資して設立された専門学校だ。
 微笑した。苦笑いだったかもしれない。男の細やかな楽しみが、あの建物にあるのだ。野心などというのではない、もっと健気な楽しみが。
 将来、どれだけアナハイムに貢献することになるかは未知数だ。だが、きっとあの男ならアナハイム・エレクトロニクス社の未来を確固たるものにしてくれるだろう。
 窓に映った男の顔は、ほんの少しの間だけ穏やかさを滲ませていた。
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