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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
25話
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のだが。追加でもう何本か、コンビニでも買えるプラスチックボトルのワインをワインセラーから引っ張り出した。
「私こそ悪かったわ。貴女に言うべきことじゃなかった」
「いや、いいんだ。お前がそう言うのもわかる」
 白を飲みながら残った肉塊を口に放り込む。
「私にそれを言う資格はない」
「でも、里程標はあるのでしょう」
 フェニクスは何も言わず、ただワインを口に含んだ。
「人はみんなラクダなんだから。好き勝手になんてできないんだったら、背負っていくしかないでしょう」
 ―――あぁ酔っているな、と思う。こんな臭い話をへらへらと喋れるような人間じゃなかったのに―――いや、年か。もう自分は小汚いおっさんだった。だらしなく茹でソーセージと赤ワインを口に放り込んで、碌に味も分からなくなっていることでそんな些末な事実に気づいた。
 特にフェニクスの顔も見はしなかったが、なんとなくわかった。
 わざわざ自分が言わずとも、フェニクスは征く。ただ、ちょっと背中を押してほしかっただけなのだろう。体のいいダシである。まぁ、そのくらいの価値が自分にあると言うことだ。
「ま、こっちは任せておいてよ。仕事はきちんとやるのが主義だから」
 オリエンタルな顔立ちを赤く染めたフェニクスが虚ろな目でこちらを見る。
 彼女と自分のグラスに安物のワインを注ぎ―――改めて、2人はグラスを軽くぶつけた。
 2人で盃を呷る。芳醇さなど欠片もないレディーメイドの渋い味が無遠慮に舌を浸していく―――。
「それにしても、やぼったい騎士様ね」
「そうか?」
「フツー、物語の主役ってのはイケメンって決まってるもんでしょ?」
 そうかもな、とワインを飲み下したフェニクスが笑う。そうして少しだけ笑った後、微かな笑みの影を目と口に残して、グラスの口を指でなぞった。硝子と指紋が擦れる奇妙なうめき声が滲んだ。
「どんなプロセスであれ、元々彼女が選んだ男だ。私が口出しする意味はない。それに―――」
 コニャックのガラス瓶を手に取り、つまらなそうに数ミリリットルだけ注いだフェニクスがこちらとつと見る。酔っている、と言いながら、いつも通りの肌色には少しの赤みもさしていなかった。
 微かに、琥珀色の瞳が戸惑う。
 まるでワインのテイスティングをするように、グラスを揺らす。並みを打ったキャラメル色の蒸留液には、飲み残しのワインの残影が漂っていた。
「―――我々にはあの男の力は必要不可欠だ。都合がいいといえば都合がいい。あいつは純粋だからな」
「重要なのは最後でしょう?」
 ―――さぁな。
 そう応える代わりに、フェニクスは高級ブランデーを全て口に含んだ。
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