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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
14話
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 切り合うこと3合。コクピットを貫かれた《ギラ・ドーガ》を青い瞳で睥睨する堕ちた天使は、ビームサーベルの発振を抑えた。
 戦いだけを見るなら、「彼女」たちの圧勝だった。殺戮と呼び換えてもいい。数の上でも、機体性能でも、練度においても、戦った相手との戦力差を鑑みれば鑑みるほど、敗北の要素はミリほどの存在も許されない戦いだったのだ。
 しかし、彼女は緊張の下にあった。これほどの緊張をもって実戦に挑んだのは初めてといってもよかった。
 要因は多い。
 彼女は初めて堕天使の胎の中で殺し合いを演じたのだ。慣れない機体での実戦というのは時に思わぬ死を招く。ミリ以下の敗北要因がこれだった。第二次ネオ・ジオン抗争において肉弾戦とすら呼びうる戦闘をこなした機体なだけあって、機体の剛健性に疑いを挟む余地はないが、何分戦闘回数が少なく戦闘実証がなされているとはいいがたい。往々にして試作機はモルグだの棺桶だの言われるのだ。
 だがそれは、本質的な問題ではない。例え彼女が堕天使を調教しきれずとも、仲間が敵を狩る。
 真なる緊張の理由は別。
 そう、本来堕天使はまだ起きるべき時を迎えてはいないのだ。本来であれば、まだ深い眠りの底に微睡んでいなければならないというのに―――。
 軽い振動が彼女の意識を表層に呼び戻す。全天周囲モニターの中で、自分よりはるかに巨大な漆黒の巨人がその左腕を自分に差し出しているように見えた。
(こちらグラム01。レギンレイヴ、聞こえているな)
「こちらレギンレイヴ、聞こえています」
(無事なようだな。帰投するぞ)
 女性にしては腹に沈むようなハスキーボイスが耳朶を打つ。
 無事を確認したのはレギンレイヴと呼ばれた彼女を気遣うためのものというわけではない。ただ任務上、彼女の無事は彼らの最優先事項であるが故に確認を取ったに過ぎない―――多分。
 冷たい。だがその冷たさが彼女の気を引き締めるのだ。
 レギンレイヴ。神々の遺物の名をいただく少女と堕天使は、先に征く3機の仲間の後に続いた。
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