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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
4話
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しがたい俊敏な動きでもって器を取り出し、白い米―――ご飯を盛る。
「お待ちどうさま」
 目を細めた女性が湯気を立ち昇らせる白米と、例の物をカウンター越しにクレイに手渡した。
 腕時計を見やる。今日の臨時演習の開始時刻まではあと6時間。さっさと食べて、一度格納庫に向かわねばという理知的考えも、眼前で匂いを揺らめかせるものの前では無粋な考えだった。
 鼻孔を抜け、大脳古皮質まで貫く匂い。足早に近くのテーブルに腰かけ、フォークを左手に構えた―――。
「よぉ、いいか?」
 聞きなれない―――聞いたことがある声が耳朶を打った。顔を上げて、前の席を見上げると、見慣れない―――されど見たことがある顔があった。
「ノースロップ少尉……でしたよね」
 首を傾げながら、記憶を手繰り寄せて言う。流石にあったばかりの人の名前を、間違えるわけにもいかない。
「ノースロックな、クレイ・ハイデガー」
 応えも聞かぬまま、オーウェン・ノースロックがクレイの前の席に座った。
 身長200超、片腕で72kgある攸人を持ち上げてみせた怪力を実証するかのようながっしりとした体格の割に、どこか物静かさを持った知性的な顔立ちと対照的な燃えるような髪―――といった外見の男は、席に座ると窮屈そうに見えた。
「あ、申し訳ありません……」
「気にするな。よく間違えられる」
 恐縮するクレイには目もくれず、市販品のバターの蓋を開けたオーウェンは、今日の朝食であるパンに一掬い塗る。続いてプレートの上に乗っていた薄緑のレタスやらトマトやらを食パンにはさんでいくのを茫然と眺めていると、「私もいいかしら?」という別な声が肩を叩いた。
 クレイが顔を向ける間もなく、隣の席に腰を下ろした女性が微笑とともに挨拶をする。
 手から滑り落ちるような砂金の髪を短く切りそろえながらも、もみあげを長く伸ばして三つ編みのように編み込む―――という手間がかかっていそうな髪型に目が行く。
「ええと、ローティ少尉?」
「ええ、ジゼル・ローティ」
 にこりと瑞々しい朝光の笑みを一つ。初対面の時も思ったが、優しそうなお姉さんといった印象のジゼルは、その温和な容姿に対してれっきとしたMSパイロット―――クレイのバディを務める人でもある。
「改めて、これからよろしくね」
「こちらこそよろしくお願いします。ノースロックさんも」
 へこりと頭を下げる。おう、とぶっきらぼうにオーウェンが応じると、出来上がったお手製サンドイッチを口に放り込んだ。
「ファーストネームでいいぞ。先任とはいえ同じ階級なんだ」
 口に物を入れている割に、綺麗な発音で言ったオーウェンが顔を上げる。ぽろぽろとレタスの破片がテーブルの上に落ちる。平然とそれを摘まんで口に入れるオーウェンに、「汚いわよ」と窘めたジゼルも、「押しつけはしないけど
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