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通報してはならない
第三章
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 そうしてだ、踵を返してだった。
 ファミリーの面々を引き連れて部屋を後にした、彼等あ去ってからだ。
 アントニオは良平にだ、あらためて言った。
「祝福はしてくれているからね」
「う、うん」
 良平は老人のその鋭い目と言葉を思い出しつつ戦慄の中で応えた。
「そうなんだね」
「ファミリーの一員となったことは事実だけれど」
 それでもだというのだ。
「マフィアに関わらないといいからね」
「君みたいにだね」
「そう、兄さんはマフィアだけれどね」
 それでもだというのだ。
「僕も妹も一族、ファミリーでもね」
「マフィアではないね」
「僕は学者だよ」
 あくまでその立場だというのだ。
「そこは違うからね」
「マフィアに関わっていないと」
「いいんだよ、それとね」
「それと?」
「絶対に。うちのファミリーの仕事は邪魔しないでね」
 アントニオはこのことをだ、良平に強く念押しをした。
「何があっても」
「若し邪魔をしたら」
「その時はね」
 それこそというのだ。
「制裁が待っているから」
「マフィアの制裁が」
「マフィアの制裁は半端じゃないんだ」
 それこそとだ、アントニオは強張った顔と声で良平に話した。
「日本のヤクザの比じゃないよ」
「指を詰めるとかじゃないんだね」
「両手を肩から切り落とされるとか普通だから」
「それが普通なんだ」
「シチリアからそうだから」
 マフィアのはじまりは南イタリアのこの島にある、この島で自警団や密輸組織、山賊等がなったものだ。それがアメリカに渡ったのだ。
「絶対にだよ」
「仕事の邪魔をしないんだね」
「ファミリーにも容赦しないから、マフィアはね」
 裏切り者と見なされて、というのだ。
「そのことは気をつけてね」
「わかったよ、じゃあね」
 良平も強張った顔で答えた、幸せな結婚式はそうした恐ろしい緊張も含んだものだった。だが良平とレオンタインの結婚生活は幸せにはじまり。
 幸せに二人で楽しんでいた、その中で。
 良平はある水曜日仕事帰りにニューヨークの街を歩いていてだ、偶然に。
 道を行くスーツの老人が急にだった、何処から撃たれて殺された現場に遭遇した。その彼等を見てだった。
 すぐに携帯で警察に通報しようとした、だがここで。
「木崎か?」
「あれっ、岡田か?」
 声がした方を見るとだ、何とだった。
 幼馴染み、日本にいた時に幼稚園から高校まで一緒だった岡田喜朗がいた。その彼を見て携帯を収めてだった。
 そして彼にだ、こう言った。
「何でここに」
「いや、仕事でこっちに来たんだよ」
「ニューヨークにかい」
「出張でね」
 それで来たというのだ。
「この街に来たんだよ」
「そうなんだ」
「そう、それでね」
「それで?」

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