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乱世の確率事象改変
虎と龍の舞う終端
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 人は強大な敵に立ち向かう者に憧れる。圧倒的な力の差を前にしても臆さず、何かの為に戦おうとするその姿に奮い立たされる。
 その背に憧れ、追い駆け、着いて行こうと感じ始める者のなんと多い事。故に彼女……雪蓮は王としての姿を皆に見せ、英雄としての自分を高め続けた。そうすることで、人々が生きる希望を持てるから、と。
 孫呉の精兵達は彼女の力強さに憧憬を覚えた。我が王のなんたる誇り高き様よ、天下無双を相手に怯まず臆さず、ついには勝利に手を届かせんとしたのだ。
 皆の心は此れまで以上に湧き立ち、最高潮に達していた。

 だから気付かない、気付けない。
 ほんの些細な、それでいて濃密な異質な殺気は……高揚した場に流されてしまう。

 ギリギリと弓の弦を引く一人の男は目に涙を浮かべていた。ぼやけそうになる視界を何度も凝らして矢の照準をしっかりと合わせた。
 戦場に溶け込んでいたその男は昔の戦を知っていた。遥か昔、龍と虎が争った時分のこと。一度目の戦争を経験していた。
 彼の主は賢き龍。高貴な血筋と並び立つ者の居ない頭脳で荊州を安寧へと導いた英雄。病に侵されていながらも戦を嫌い、かの董卓連合でさえ大地の安定の為と居残った。
 彼がどれだけ安心した事だろうか。どれだけ有り難かっただろうか。どれだけ……感謝していたことだろうか。
 いつ死ぬか分からぬ戦に、いつでも覚悟を以って向かう。その度に家族を悲哀に沈めて……それでも守れることが誇りだと言い、家族も送り出してくれる。

 兵士になどならなければ良かったと後悔したこともあった。それでも戦ってきたのは一重に愛する大地の平穏の為。
 賢き龍は死んだ。病床に伏した身体で無理をして、帝に身の潔白を証明しに行き、世の平穏を願う忠臣として死んだのだ。
 龍の護衛についていた男とも友達だった。それほど戦に出ていなかったのだから、古くからの兵士は自然と仲も深まるモノ。それに、昔の戦も経験した仲であった。

 昔のことが無くとも、この男は虎が憎かった。
 聞いている。知っている。分かっている。
 護衛の男の家族には、極秘で情報が与えられていたのだ。龍の亡骸と男達の屍を葬った後に、護衛の男の家族に挨拶に向かった。
 悲哀の底に居るその家族達に心を痛め、ぽつりぽつりと語られる話に衝撃を受けた。

 曰く、龍は虎に殺された。殺される事が分かっていながら都に向かった。天下無双を残したのはこの地を守る為。人食い虎は子供であろうと龍の留守に荊州を攻めぬ道理は無く、万が一があっても大地を守る為。それでも……長くから護衛した兵士二人と龍は死地に向かった。

 嗚呼、と家族は泣いていた。
 愛する地で死ぬことも出来ず、娘とも喧嘩別れしたまま、虎視眈々と狙う敵にせめて一矢報いる為にと、龍は命を賭けた……それが
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