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黒魔術師松本沙耶香 客船篇
5部分:第五章
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第五章

「それではね」
「御願いします」
 こうしたやり取りの後で客船の中に入った。客船の中は眩い淡いキャンドルを模した灯りでビロードの赤絨毯、それに白い磨き抜かれた壁がある。扉はそれぞれ大理石を思わせる造りで何もかもが豪勢なものだ。
 沙耶香はその中を進みながらだ。自分を部屋に案内してくれている冥土に声をかけるのだった。
 そのメイドは黒と白の服に白のボンネットを身に着けている。黒を基調とした服に白いフリルがある。ストッキングも見事な白だ。黒いショートヘアでまだ幼さの残る顔立ちの可愛らしい少女である。沙耶香は彼女に声をかけたのである。
「一つ聞きたいことがあるけれど」
「何でしょうか」
 前を進んで部屋に案内していた彼女はここで沙耶香に顔を向けて応えてきた。
「何か気になったことでも」
「貴女のことよ」
 口元を微笑まさせての言葉である。
「まず貴女の年齢は」
「十九です」
 そうであると答えるのだった。
「今は十九歳です」
「そう、十九歳ね」
「高校を卒業してすぐにこの客船に雇ってもらいました」
 自分の事情も話してきた。
「そして今ここにです」
「いるというのね」
「はい、そうなのですが」
「わかったわ」
 ここまで聞いて満足した顔で頷いた沙耶香だった。
「それはね」
「そうですか」
「わかったわ。では部屋に着いたらね」
「まずはどうされますか?」
「ワインを御願いするわ」
 最初はそれであった。
「それからはね」
「それからは?」
「後で言うわ」
 こう言うのだった。
「後でね」
「そうですか」
「後でね」
 何を考えているのかは今は言わなかった。そのうえでそのロイヤルスイートに案内された。その部屋の中はというとだ。
 これまた一際豪奢であった。天井にはシャンデリアがありそれの光で黄金に照らされている。絨毯は見事なアラベスク模様でありカーテンは絹であり白く輝いている。
 そして装飾や見事な風景画が飾られテーブルと椅子は黒檀である。ソファーもベッドも大きくベッドには天幕すらある。沙耶香はその部屋の中に入ったのである。
 その部屋に中に入るとであった。またメイドに対して言うのであった。
「ワインはね」
「どれでしょうか」
「トカイにするわ」
 それだというのである。
「二本ね」
「わかりました。二本ですね」
「そうよ。それに」
 注文を続けていく。
「そしてチーズもね」
「チーズは一体何を」
「カメンベール、フランス産を」
 チーズはそれであった。
「後はソーセージを貰うわ」
「以上で宜しいでしょうか」
「実はまだあるのだれど」
 ここでこんなことも言ってきた。
「それはね」
「それは」
「ワインを持って来てくれてから言うわ」

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