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黒魔術師松本沙耶香  薔薇篇
8部分:第八章
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第八章

 酒は瞬く間に飲み干された。二人は少し赤い顔になっていた。
「まだ。飲めるかしら」
「勿論ですよ」
 速水は沙耶香に言葉を返した。二人は口元だけで笑い合っていた。
「ですが。一つお話したいことがあります」
「何かしら」
「この屋敷にいる人達ですよ。把握しておられますか?」
「いえ、まだよ」 
 沙耶香は素直に答えた。
「屋敷に案内してくれたあの男の人とあの方。そして」
「貴女と褥を共にされたあの少女」
「今わかっているのは三人だけね。けれどそれだけじゃないわよね」
「はい。家にはまだ何人かおられますよ」
「何人も」
「ええ。メイドの方が何人か、他にもね。女性の方が多いようですね」
「それはいいことね」
「おやおや、まだ味わい足りないのですか」
「味わうものは一つだけとは限らないわ」
 沙耶香は言う。
「一つのものを一度だけ味わうのは私の主義じゃないわ」
「多くのものを何度でも、ですね」
「そうよ、それはわかってくれてるわね」
「はい。まあそれはいいです」
 速水はそれには構わなかった。沙耶香の嗜好はよくわかっていたからだ。
「名簿、御覧になられますか」
「あるのね」
「はい、こちらに」
 彼が腕を掲げると隠されている顔の左半分の目の部分が黄金色に光った。その光が手の平に当てられるとそこに一冊のファイルが現われた。
「どうぞ」
「有り難う」
 沙耶香はそのファイルを受け取った。それを開いて中を見る。
 中には何枚かの写真と多くのデータがあった。その中にはあの男のものもあった。
「あの人は野島さんというのね」
「そうです、そこに載っていますね」
「野島栄一、覚えておくわ」
「他にも」
「結構多いわね」
 沙耶香はファイルを見続けながら言った。
「思ったよりも」
「そうですね。私もこれ程大勢の方がおられるとは思っていませんでした」
 速水も答えた。
「意外と多いものです」
「何人かは住み込みなのね」
 それもデータに書かれていた。
「ええ、そのようですね」
「待遇はかなりいいのね」
「あの方は気前のいい方ですからね。当然でしょう」
「そうね。それにしても」
「可愛い女の子が多いと」
「ええ」
 沙耶香の笑みが妖艶なものとなった。
「嬉しいわね、何かと」
「またそれですか。お好きなことで」
「今回もまた。仕事の合間には困らないわね」
「いい加減私に振り向いてもらいたいものですが」
「それは何時かね。それじゃあ今日はこれまでで」 
 そう言ってファイルを速水に返した。それから席を立った。
「どちらへ?」
「寝る前に。身体を清めておきたいの」
「御風呂ですか」
「そうよ。貴方はどうするの?」
「御一緒に。と言いたいところですがそれはい
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