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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百七十二話 混迷
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れ地球そのものも叩き潰された。彼らは組織再生のため必ず資金を必要とする筈だ、国債と株はその資金源になる可能性が有った。

ペイワードが自治領主である間はそれらが地球教に流れる事は無いだろう、流れるとすれば侵攻によってフェザーンが混乱した時だとエーリッヒは考えていたが……。一兆帝国マルク相当の貴金属か。国債や株の所有者を変えるよりも貴金属を密かに持ち出す方がペイワードに気付かれる危険性は低いと見たという事か。

ルビンスキーが動いたかな。地球教は当然だが国債と株を欲しがった筈だ。だがペイワードに気付かれると警告して貴金属を小出しに渡した。もどかしさに不満が募っただろう。暴発させやすくなったわけだ。それが真の狙いだったかもしれない。

いや、それともペイワード自身が保険を掛けた可能性は無いか? ペイワードは地球教に殺されずに帝国に保護されている。表では敵対しても裏では繋がっていた? 可能性は低いと思うが……。だが貴金属は流さなくても他の面で協力した可能性は有るかもしれない。ボイムラー准将がその辺りを考えていれば良いが……。

「ルビンスキーは?」
俺の問いにレムシャイド伯が首を横に振った。
『未だ姿を現さない。用心しているのかもしれん』
「或いは勝敗が決まるのを見守っているのか」
『有り得るな。フェザーン市民が大人しいのもそれかもしれない。縁起でもない事だが帝国が敗れる、或いはそれに近い状態になれば牙を剥くかもしれん』

レムシャイド伯は渋い表情をしている。手放しで喜べるような状況ではないという事だな。早々に通信を切り上げボイムラー准将に連絡を取った。直ぐに准将がスクリーンに映った。こちらも表情は厳しい。予期していた事では有るが面白くは無かった。

「ボイムラー准将、忙しい所を済まんな」
『いえ、御気になさらずに。こちらから連絡を入れようと思っていたところです』
「そうか、大凡のところはレムシャイド伯から聞いている。詳細は卿から聞いてくれとの事だった。話してくれるか」
ボイムラー准将が苦笑を浮かべた。面倒事を押し付けられたとでも思ったかもしれない。

『フェザーンの状況ですが現状では反帝国の暴動や騒乱が起こる可能性は小さいと思います。帝国はイゼルローン、フェザーン両回廊を制圧し優勢に戦いを進めている。フェザーン市民はそれを十分に理解しています。このまま勝ちきれば問題は無いでしょう』
「うむ」
レムシャイド伯と同じ事を言っている。つまり油断は出来ないという事だ。

『国債と株の事はお聞きになりましたか?』
「聞いた。一兆帝国マルクの貴金属の事もな。どの程度地球教に流れたのだ」
『ド・ヴィリエを尋問していますが未だ……。小官の予想では百億から百五十億帝国マルクの間ではないかと考えています。主に金を売ったようです』
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