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珠瀬鎮守府
柏木提督ノ章
五文字の伝言
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 鎮守府内を地上伝いで海側へ移動する。視界内の敵艦隊は上陸はせずに湾内に留まり、地上設備へと砲火を浴びせていた。暫く移動するうちに体は持ち直し、右耳が一切聞こえない以外は然程の支障はない程度には落ち着いていた。
「提督! 提督!」
 焦る島風の声が無線機から漏れた。私はそれを右利きの癖で右耳へとつけて、何も聞こえない事を思い出して左耳へとつけてから返答した。
「どうした」
「生きてたの!?」
「ああ、戦闘指揮所を見たのか。あの程度では死なん」
 軽口を言って武器などを保管している場所を見やる。確かに彼処からならば指揮所を見れる。
「あの程度って……あの指揮所一階がもうなくなっているんだけど!」
「私を殺すのには些か火力が足りなかった様だ。それで、島風。換装は?」
「完了したよ。今は湾の先端に居る」
 湾の先端に居る私の側に彼女達の姿はない。逆側の様だ。
「私は逆側の先端に居る」
「今……あ! 潜水艦がいる! 進行方向は湾内だよ!」
 島風の言葉を聞いて、闇夜の海へと視界を向ける。そこには水上近くを進行している潜水艦の立てる波が月光に照らされていた。彼女の言うとおり、進行方向は湾内。数は二。
「どうしよう、湾内に侵入しちゃう」
 敵潜水艦が湾内にいるとなれば味方水雷戦隊や巡洋艦は近づけない。航空戦力が来るまで地上への攻撃を許すことになる。
「そうだ!」
 島風が言うが早いか、無線機越しに着水音がした。
「おい、島風」
「あー、こちら島風。展開中の各艦へと伝達。これより湾内への敵潜水艦侵入防止の為湾内入り口に機雷を撒きます。調停深度は潜水艦用しかありませんけどお近付きはおすすめしません!」
 無線機越しの発動機の唸り声と共に、湾内の逆側から水柱を立たせつつ移動する島風が見えた。
「おい島風止まれ! 死ぬぞ!」
「ごめん今忙しいから命令なら後で!」
 早口で言い切る島風。視界の中の彼女は爆雷投射機と、驚く事なかれ素手を使い爆雷を撒きに撒いていた。破茶滅茶である。が、確かに大量の爆雷が撒かれていた。
 ただ、この月光の元、そんな事をすれば嫌というほどに目立つ。湾内に侵入した敵艦隊は島風をすぐさま発見し砲撃を開始した。
 私は無線機を地面に置いて九九式を構えた。敵を殺すことは叶わずとも気を引くことは出来るだろう。
「こちら警備隊、提督殿聞こえますか。島風殿はそちらへと向かいます。我々が気を引きますので島風殿を迎える準備を」
 湾の逆側から、光点が放たれた。光点が……曳光弾!
「お前たち」
 気を引くにしても、その放った弾は曳光弾だった。気は引ける。引きすぎる。深海棲鬼は同軸銃(スポッティングライフル)か残った艦娘が居たと見て警備課の者がいる場所に総攻撃に入るに違いなかった。勿論警備課の者はそれを容易に予測できた
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