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黒魔術師松本沙耶香  人形篇
9部分:第九章
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った雰囲気の大人の女性がそこにいた。髪は隠しているがその顔は日本人離れしたものであり彫りが深く、そして鼻も高かった。目は切れ長でまるで描いたかの様にはっきりとした二重であった。口は少し大きく、そして唇は赤い。日本人にスペイン人の感じが入ったような顔立ちであった。背もスタイルも鮮やかなものであり、普通のシスターには見えなかった。
「わかりました、シスター」
 調理の者がそれに応える。そして肉も魚もないメニューを彼女に差し出した。
「どうぞ」
「有り難うございます」
 そのシスターは微笑んでそれを受け取った。そしてそのままレジに向かった。
「あの」
 沙耶香はそれを見て絵里に声をかけた。
「何でしょうか」
「ここはカトリックですよね」
「はい」
 彼女は沙耶香のその言葉に頷いた。
「確かカトリックは肉食は禁じていなかったと思いますが」
「ああ、あの方ですね」
 それを聞いて絵里の方でもピンときたようであった。
「あの方は特別なんです」
「特別」
「シスターデリラですよね」
「あの方デリラと仰るのですか」
「はい。あの方はベジタリアンなんですよ」
 そしてこう説明した。
「何でもお肉やお魚は受け付けないらしくて。それで」
「そうだったのですか」
 どうやら教義の問題ではなく個人の趣向であったらしい。
「それでいつもああした特別な食事を注文されているのですよ」
「成程」
 こうした人物はやはりいるものである。菜食主義はやはり殺生を禁じるという考えから昔から存在していた。日本でも古くからあり、江戸時代まで肉は食べなかった。猪の肉を当時鳥の仲間だと考えられていたモモンガの仲間だと強引にこじつけて食べたりしていた。徳川幕府の最後の将軍徳川慶喜は豚を食するという理由で大奥であまり好かれていなかったという話も残っている。
 菜食主義自体はやはり清らかに見えるものだ。だがだからといってそれを行う人物までもが清らかとは限らない。あのヒトラーは肉も魚も口にしない菜食主義者であった。彼は酒も煙草もやらず、そして女性に対しても清潔であり、服や住居、蓄財にも興味がなかった。住居や蓄財はともかく酒や煙草、そして女に対しても清潔だったとは沙耶香から見ればそれだけで人生の意義がないものであるが。
「ですから御気になさらずに」
「わかりました」
 だが沙耶香はここであるものを感じた。それはそのシスターデリラから妙な気を微かに感じたからだ。それは彼女がよく接する類のものであった。
 だがそれは微かであり、なおかつ一瞬のことであった。その気は忽ちのうちに感じられなくなり、完全に消え失せてしまったのであった。
 沙耶香は気にはなったがそれから離れるしかなかった。そして食事を受け取り絵里と向かい合って席に就いた。食べながら今後のことについて
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