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トワノクウ
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第三十一夜 鶸萌黄
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そいつの語り口に、いい加減、梵天の我慢も限界に達した。

「見誤ったな、告天。今となってはこんなに陳腐な奴に操られていた己にさえ笑えてくるよ」

 梵天は、自身を含めてあまつきを狂乱せしめた怨敵に向かって、

「この俺の思惑が、お前程度に推し量れるわけがない」

 まったく呆気なく、あっさりと勝ち誇ってみせた。





 直後、空間が裂けて、鮮烈な光が射し込んだ。
 振り抜かれたのは錫杖。

「梵天!!」

 露草だった。露草の必死な顔は今まで何度となく見てきたが、それが己のためだったのは今回が初めてだ。

「てめえ何のこのこ捕まってんだ! らしくねえドジ踏んでんじゃねえよ!」
「と言われてもね。これはある種の事故だったし」

 言うと、露草は紅潮した顔をさらに赤くして怒鳴った。六年前まではいつものことだったので、梵天は思い出しながら適当にあしらった。

 景色が現実に戻る。
 一つだけ、捕まる前にはなかったものを足元に見つけた。おそらく境界の名残だ。梵天が領域を作って散る羽毛と同じもの。

 梵天はそれを拾った。

(しゅ)(こう)……夜明けの空色の名を冠する椿の花びら、か)

 今しがたまでの、いけ好かない相手を端的に表した風物を、梵天は手の中で握り潰した。

「露草」
「あ?」
「助かった」

 露草は今までにないほど奇妙で愉快な表情をした。
 梵天もつい噴き出した。

「て、てめ……! 何がおかしい!」

 露草の言う通りだ。今日の自分はらしくない。遠回しながら礼を言ったり普通に笑ったり。
 きっとあの空間の毒気が強すぎて、外界の清浄さに当てられたのだ。そうに違いない。
 全てそのせいにして、梵天は笑い続けた。
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