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黒魔術師松本沙耶香 妖女篇
26部分:第二十六章
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第二十六章

「けれど。その香りは」
「毒の香りね」
「甘い香りの中で死になさい」
 静かだが確かな言葉だった。
「この美しい宮殿の中で」
「死に方としては悪くはないわ」
 それを告げられても態度を変えない依子だった。そして一歩も動かない。
「それはね」
「では今ここでそうして死ぬのね」
「けれど。私が死ぬ時は今ではないわ」
 しかし口元に微かな笑みを出したうえで返してみせたのだった。
「今ではね」
「ということは」
「そうよ。残念だけれど」
 やはり一歩も動かない。しかしであった。
 その花びら達が突如として凍った。黒い氷がそれぞれ花びら達を覆ってしまったのである。
 黒い透き通った氷の中にその紅の花びら達がある。それはさながら黒い宝石の様であった。
 花びらを覆ってしまった氷達はそのまま依子の周りに落ちる。そうしてそのまま彼女の周りで花びらごと溶けていくのであった。
「こうすることにしたわ」
「氷で薔薇をね」
「毒を封じることは簡単よ」
 氷が完全に消えたうえで述べる依子だった。
「それはね」
「簡単だというのね」
「そうよ。消せばいいだけだから」
 それだけだというのである。
「こうしてね」
「流石にこの程度は貴女には効かないみたいね」
「わかっていたと思うけれど」
「それはね」
 実はそれはもう既に察していた沙耶香だった。それでもあえて小手調べとして使ってみせたのである。言うならば挨拶といったところである。
「わかってはいたわ」
「そう。では挨拶として受けておくわ」
「そうしておいて」
「それではです」
 すぐに速水が動いてきた。やはりその右手のカードをかざしている。
 そしてそのカードを持つ右手を一旦後ろに引いて。サイドスローの要領でカードを投げてきたのだった。
「これが私の挨拶です」
「その挨拶、見せてもらったわ」
 依子はそのカードを見ても態度を変えない。
「それではね」
「これはどうして防がれますか?」
「こうするだけよ」
 こう言うとであった。そのカードは彼女の身体をすり抜けるのだった。それはまるで霧の中を通り過ぎるかの様であった。まさにそうしたものであった。
「ただね。こうするだけよ」
「御自身を霧に変えられたのですね」
「これ位は造作もないことよ」
 元の姿に戻って言葉を返す依子だった。
「私にとってはね」
「己の身体を霧に変える」
 沙耶香はそのことについて述べた。
「吸血鬼の力だったかしら」
「元はね。ただそれは私も使えるのよ」
 そうだというのである。
「術としてね」
「見事よ。そうした術まで身に着けているのはね」
「これはいい術よ」
 その術について唇の両端を微かに綻ばせて述べるのだった。
「こうして攻撃もか
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