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真田十勇士
巻ノ七 望月六郎その六
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「あの人は」
「あの高坂殿の様にですか」
「そこまでの方ですか」
「では徳川の敵になれば」
「これ以上はないまでに厄介な御仁ですな」
「戦いたくないね」
 舞音は前を見据え歩きながら険しい顔で言った。
「あの人とは」
「敵に回せば強敵となる」
「だからこそですか
「敵に回したくはない」
「そうなのですな」
「周りにいる連中も私達と同じだけ強いね」
 穴山や清海達もというのだ。
「だから余計にだよ、半蔵様に申し上げるよ」
「幸村殿とは戦うべきではない」
「左様に」
「ああ、駿府に戻ったらね」 
 こうした話をしつつだ、舞音は飛騨から越中に向かった。幸村一行のことを周りに来た忍の者達と話しながら。
 だが幸村達はそのことを知らないままその橋のところに来た、すると。
 橋のとことに袖のない赤茶色の毛皮に黒い旅用の袴に脚絆といった格好の男が立っていた、逞しい身体をしていて背は海野程だ。
 猛々しい感じの眉に強い光を放つ菱形の目、逞しい唇は微笑んでいる。全体的に彫のある顔立ちで頭は後ろで髷にしておりもみあげは濃い。
 その彼がだ、幸村達を見て声をかけて来た。
「ここを通られるか」
「如何にも」
 男に幸村が答えた。
「これより近江に入るつもりじゃ」
「わかった、見たところ貴殿等は武芸者の一行だな」
「そうだと言えば」
「わしの名は望月六郎」
 男は自ら名乗った。
「大和の生まれ、織田家で足軽をしておったが腕試しをしたいと思いここにいる」
「ここで何をしておるのか」
 話は聞いていたがだ、幸村はその男海野にあえて問うた。
「一体」
「ここで強い者に勝負を挑み己の腕を見ている」
「それが腕試しか」
「左様、勝負をしたくない者には何もせぬ」
 海野はこうも言った。
「勝負をしたい者とだけ戦っておる」
「ではどうして飯を食っておる」
「その辺りで狩りをして釣りをして。食いものなぞ何処にでもある」
「民百姓には何もしておらぬか」
「ははは、それはならず者のすること」
 男は幸村の今の問いには笑って返した。
「わしはこれでも武士、ましてや忍術も使える身」
「だから盗みはせぬか」
「田畑を荒らす位なら買う」
 その田畑にあるものをというのだ。
「負かした武芸者から銭も貰っておるしな」
「それでか」
「負かした相手からは銭を取って通しておる」
 その橋をというのだ。
「御主達からもそうする」
「勝負をしたならば」
「その通り、ではどうするのか」
 望月はあらためて幸村達に問うた。
「勝負をするか、それともせぬのか」
「するに決まっておろう」
 根津が前に出て望月に答えた。
「その為に来たのだからな」
「ほう、そう言うか」
「拙者が相手をすることになっておる」

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