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音楽家の人間性
第四章

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「家庭裁判所にも何度行くことになるか」
「下半身に人格がなかった」
「しかも傲岸不遜、毒舌家と」
「一緒にいたくないな」
「ワーグナー以上に」
「そうだ、そうした人間よりはだ」
 遥かにというのだ。
「普通の方が遥かにいい」
「ハンナさんの為には」
「誰の為にもだ」
 娘だけのことではなかった、グレゴールがここで言う対象は。
「周りの、家族のそして自分自身の為にも」
(普通の人格の方がいいですか」
「そんな性格だと誰もが大変だ」
 ワーグナーやクレンペラーの様な性格だと、というのだ。
「実際ワーグナーの人生は波乱万丈だったな」
「そうでしたね」
「ベートーベンは敵だらけだった、モーツァルトも常に金銭に苦労していた」
 相当な収入があったのにだ、モーツァルトは。
「シューベルトも病を得て若くして死にトスカニーニも今だに言われていてだ」
「クレンペラーも」
「何度もトラブルを招いている」
 当時でもだ、そうだったのだ。
「今だと確実に社会的に抹殺されている」
「その人格故に」
 そしてそこから来る行動故にだ。
「そうなっていましたね」
「そうしたことを見るとだ」
「普通が一番ですね」
「性格もな。だから君はだ」
 グレゴールはここで暖かい目になった、そのうえでこうも言ったのだった。
「娘を普通にだ」
「普通にですか」
「幸せにしてくれ」
 あくまで普通に、というのだ。
「そうしてくれ」
「わかりました」
「普通にだ」
 グレゴールはハンナにも顔を向けて微笑んで言った。
「幸せになるんだ、いいな」
「わかったわ、普通になのね」
「普通の人格で普通の人とだ」
「普通に結婚して」
「普通に幸せになるんだ」
 あくまで幸せに、というのだ。
「いいな」
「わかりました」
「その様にな」
 こう言ってだ、グレゴールはハンナとフリッツの結婚を認めた。フリッツならハンナを必ず幸せにすると確信したが故に。
 実際に二人は普通の家庭を持ち普通に幸せになり普通に可愛い男の子をもうけた。グレゴールはその孫の顔をはじめて見た時に笑顔でこう言った。
「普通の幸せこそが最高の幸せだ」
 ここでもこう言ったのだった。


音楽家の人間性   完


                             2015・2・22
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