第三章
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「多いな」
「はい、人が」
「起きている者が多い」
「迂闊に家に入られませんね」
「霧になろうが蝙蝠になろうがな」
「こうまで誰もが起きていると」
「困ったことだ」
夜の街、灯りの多いそこも見ていた。
「どうにもな」
「この国はです」
スペインはとだ、ハスキルは主に話した。
「シェスタといいまして」
「昼に寝ているな」
「はい、ですから」
「夜は長いか」
「イタリアと同じで」
「昼は嫌いだ」
吸血鬼らしい言葉だった。
「だからだ」
「私もです」
「昼は出来るだけ出たくはない」
「しかしこれでは」
「夜には血を吸えない」
「昼しかありませんね」
「仕方がないか」
苦い顔のままでだ、彼はまた言った。
「これからはな」
「昼にですね」
「食事に出るか」
「そうするしかないですね」
「しかしその食事の時もな」
血を吸うその時もというのだった、嫌そうな顔で。
「どの人間もな」
「大蒜臭いですね」
「それが気になる」
「そうですね、私にしても」
「その血の味もだ」
それもだった、肝心のそれも。
「大蒜の匂いと味がな」
「きついですね」
「困ったことだ」
「イタリアもそうらしいですが」
実に嫌そうな顔でだ、ハスキルはモスコヴィッチに話した。
「この国は誰もがこうだとか」
「大蒜臭いか」
「ですから」
「慣れるしかないな」
「はい、残念ですが」
「わかった、ではな」
「昼に出てです」
食事にだ。
「大蒜は我慢しましょう」
「やれやれだな」
モスコヴィッチはこの世の終わりの様に嫌そうな顔で頷くしかなかった。そして実際に昼に出てそのうえでだった。
大蒜臭いのを我慢して血を吸っていた、そして。
そうした日々の中でだ、地元の妖怪達と宴を行いだ。こう漏らした。
「全く、どうも」
「吸血鬼にはですね」
「この国は辛いですね」
「日光は燦然と輝いていて人間は夜起きて昼寝ている」
「しかもやけに大蒜臭い」
「教会も多いですしね」
「困ったものだ」
不機嫌そのものの顔での言葉だった。
「全く以てな」
「ははは、確かに」
「スペインは吸血鬼には辛いですな」
「血と同じ赤は多いですが」
「それでも」
「トマトにワインか」
この二つについて言われてだ、モスコヴィッチは考える顔になった。宴の時は貴族らしく正装だがやはりスペイン調の生地が薄いものだ。タキシードでも。
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