巻ノ六 根津甚八その七
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「真っ当に生きよ」
「うむ、そう言うのならな」
「わし等もそうする」
「ではな」
「これより大坂に行って来る」
「それではな、しかしな」
ここでだ、ならず者達は幸村に対して問うた。
「貴殿、何者じゃ」
「見たところ若いが名のある侍と見たが」
「一体何処の誰じゃ」
「言葉の訛りは信濃と見たが」
「同じ武田家に仕えておったが」
幸村はならず者達の話を聞いて言った。
「拙者の名は真田幸村、さっき名乗ったな」
「何と、貴殿が真田幸村殿か」
「あの上田のご次男殿」
「いや、まさかここでお会いするとは」
「夢にも思いませんでした」
ならず者達は同じ武田家に仕えていた、しかも重臣の息子と足軽の間なのでだ。畏まった態度になって述べた。
「無礼、申し訳ありませぬ」
「何と謝っていいか」
「この非礼、何とすればいいのか」
「謝る必要はない、それよりもじゃ」
幸村が彼等に言うことはというと。
「これからは全うに生きるのじゃ、よいな」
「はい、そうします」
「羽柴秀吉様といえば気さくで家臣にも優しいとか」
「足軽も大事にされるといいますと」
「それではですな」
「これより大坂に向かいまする」
「その様にな、では達者でな」
幸村はならず者達を送った、そしてだった。
あらためてだ、共に戦っていた男に言われたのだった。
「先程の名乗りですが真田幸村殿といえば」
「ご存知か」
「はい」
男はここでも確かな声で答えた。
「それがしも」
「そうであったか」
「まだ元服したばかりですが文武両道、智勇兼備そして義を重んじられる」
そうした人物というのだ、幸村は。
「そう聞いていましたが」
「それでどう思われるか」
実際の幸村に会ってとだ、他ならぬ幸村自身が問うた。
「今は」
「どうやらその通りですな、それがしに助太刀に入られならず者に仕官先まで進められた」
「ただ成敗するだけではことの解決にならぬ故」
「そこまでお考えでありならず者達のことまで考えられる」
男は幸村のそうしたところまで見ていた、そのうえでの言葉だ。
「いや、全く以てそれがしの思った通りでござる」
「そう言って頂けるか」
「はい」
そうだとだ、男はまた答えた。
「そう思いまする」
「左様か、そして貴殿は」
今度は幸村から男に言った。
「根津甚八殿でござるな」
「おわかりか」
「噂に聞く腕前」
その剣術の腕からわかったというのだ。
「刀がなくとも相手から奪い使う」
「借刀の術、そして無刀でござる」
「刀がなくともでござるな」
「刀はあるでござる」
男、根津甚八は幸村に答えた。
「それ故にでござる」
「ああした風にされたか」
「左様です、あの者達が救い様のない者達なら」
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