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真田十勇士
巻ノ五 三好清海入道その十一

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「拙者はそれに生きそれに死にたいと思っておる」
「ですが殿」
 あえてだ、穴山は語る幸村に言った。
「それは」
「うむ、難しい」
「それもこの上なく」
「しかも当家もな」
 かく言う真田家もというのだ。
「蝙蝠の様じゃ」
「強い家と家の間を渡る」
「そうした家だというのですな」
「我等真田家も」
「その様に」
「そうじゃ、武田の家臣だったが織田につき」
 武田を滅ぼしたその織田家にというのだ、幸村はこの言い逃れの出来ない事実を穴山や清海達に話したのだ。
「そして今度は上杉、ひいては羽柴とな」
「まさにですな」
「強い家と家の間を渡っている」
「裏切りも常」
「そこに義はない」
「そう仰るのですな」
「そうじゃ、それが当家じゃ」
 真田家だというのである。
「十万石程度の小さな家じゃしな」
「小さい家ならですか」
「戦国の世ではそれが常ですか」
「義なぞ見ていられぬ」
「そうしたものでありますか」
「しかしそれは家を残す為、父上はあえて恥を忍んでそうされておられるのじゃ」
 彼の父であり真田家の主である昌幸がというのだ。
「実は父上は義を重んじておられる」
「確かに。四郎様をでしたな」
「最後までお守りしようとしました」
「上田に迎えようとされました」
「そして命を賭けてお守りしようとしましたな」
「あの時父上は本気じゃった」
 まさにだ、織田の大軍がどれだけ上田に来ようとも四郎、即ち主である武田勝頼を守ろうとしたのだ。そして彼を守りきる自信もあった。
「四郎様をお守りしようとされた」
「しかし四郎様は小山田めに騙され」
「そして、でしたな」
「最後はあ奴に裏切られ」
「ご自身で」
「そうなった」
 幸村は天目山の勝頼の最期、自ら腹を切ったそのことを思い悲しい顔にもなった。
「そして織田家についたが」
「そういえば織田家も」
「確かに」
「ご自身から裏切ってはおられませぬ」
「織田家は本能寺でああなりましたし」
 主である織田信長が本能寺で明智光秀に討たれたのだ、跡継ぎの織田信忠もその時二条城で討たれた。それで織田家は頭を失い消えたも同然なのだ。
 しかしだ、それでもなのだ。
「これからもですか」
「例えどういったことになろうとも」
「どの様な家と家の間を回ろうとも」
「その中でも義は守る」
「守るべき義は」
「そうされる、父上はな」
 それが昌幸だというのだ。
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