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幻影想夜
第十九夜「廻り道」
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ゃったわねぇ…。」
 母親の話しは、遼にとって理解しにくい部分を多く含んでいた。要は母親は知っている部分の一部を要約して語っていたため、かなり跳んでいるのである。
 しかし、一つだけ遼の心に留まった。

―櫛と指輪…?―

「母さん、その櫛って…濃い紫に金細工の施してあるヤツじゃ…。」
 遼がそう問うと、母親は「何で知ってるの!?」と言って目を丸くした。
 半信半疑であった遼も、半ば納得せざるを得なかった。
 遼は直ぐ様自室に戻り、あの白い紙袋を持ってきて母親に見せた。
 母親はそれを見るなり失神しそうになったため、遼は慌てて抱き抱えのだった。
「大丈夫よ…。こんなことってあるのねぇ…。この櫛も指輪も、お婆ちゃんのものに間違いないわ…。」
 そう力無く言うと、遼に渡された水を飲んだ。
「はぁ…。でも、それだけじゃないわ。この紙袋も喫茶店で使ってたものだし、手紙の筆跡もお婆ちゃんのに間違いないし…。不思議ねぇ…。」
 だが次の瞬間、何の前触れもなく突然笑い出したのであった。
「あんた彼女なんていたの!?」
 遼はギョッとした顔で一歩退き、顔を引攣らせて言った。
「い、いたけど…今は関係ないじゃないか!」
「大有りよ!お爺ちゃんもお婆ちゃんも、きっと遼のことが気になって来てくれたのよ。ほら、これを持って彼女のとこに行かなきゃ。」
 先程の無気力さはどこへやら。母親は紙袋を遼に返し、こう付け足した。
「今でも好きなんでしょ?なら、仲直りなさい。後悔しないようにね。」
「でも母さん、これってかなり高価なものなんじゃ…。」
 遼は恐る恐る問ってみた。
「そうねぇ。軽く新車は買えるわね。全く…こんなことになるんだったら話しておくんだったわ。とんだ廻り道ねぇ。」
 母親はそう言って微笑んだが、一方の遼は未だ顔が引攣っていたのであった。


  *  *  *


 あれから一年…。
 遼は今、彼女を連れてあの喫茶店のあった場所に来ていた。
 母親から聞いた話しによれば、この場所こそ、以前喫茶店があった土地に違いないとのことである。 以前は小さな町があったそうだが、過疎により皆が移転してしまい、今は田畑で作業する人達が行くくらいなのだそうだ。

 だが、その場所に行くと、あの時のようにまた、懐かしいような藤の香りが風に遊んでいた。
「ねぇ、遼から聞いた話しは今でも信じがたいけど、ここに来たらなんだか…信じられそうだよ。」
 彼女の薬指には、あの指輪が光っている。
「だって、こんなにも幻想的な風景、今まで一度も見たことがないから…。感謝しなくちゃ。あなたのお爺さんとお婆さんに…。」
 そう言って振り向いた彼女に、遼は微笑んで言った。
「あぁ、そうだね。また君と居られるなんて…。どんなに感謝しても足
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