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剣の丘に花は咲く 
第十五章 忘却の夢迷宮
第五話 交渉
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 ガリアの王都リュティス。
 その中心である王の座する巨大な宮殿―――ヴェルサルテイル宮殿。その場所に今、二人の王の姿があった。
 一人はガリア王ジョゼフ。
 もう一人はトリステイン女王アンリエッタ。
 有り得ない事である。
 ガリアは戦時中。それも王都へ攻め込まれるのも時間の問題といったところだ。そんな緊張下にある国に、他国の王が訪れるというのは普通では有り得ない。それもガリアが戦争している相手はトリステインとの関係がある宗教国家ロマリア。それも“聖戦”発動付きである。普通ならば訪れる等論外であり、関わりあいになることすら避けたいだろう。だが、現実に今、一国の王であるアンリエッタは護衛を一名連れただけでジョゼフと相対していた。
 アンリエッタとジョゼフ。この二人が今いるのは、迎賓館にある晩餐会室であった。
 部屋の中央に縦に設置された細長いテーブルを挟み、互いに護衛を一人ずつ背後に控えさせ、ガリア王ジョゼフとトリステイン女王アンリエッタが向かい合って座っている。
 晩餐会室とはいっても、二人は別に食事をとっているわけではない。テーブルには料理どころか茶の一杯すらなかった。他国の王、いや、客人を迎えるような対応ではない。しかし、互いにそのような事を気にするような相手でも間柄でもなく。ジョゼフは手に持った書類に目を落とし、書類にシワができるのも構わない乱雑にページをめくっており。アンリエッタはその様子を感情の見えない冷淡な表情で見つめていた。
 
「これはまた、随分な提案だな」

 広い晩餐室の中に響いていた紙をめくる音が止むと同時に、書類から顔を上げたジョゼフがアンリエッタに向けて口を開いた。

「最も可能性が高い提案をしただけですわ」

 揶揄うようなジョゼフの視線に、アンリエッタの冷え切った視線がぶつかる。
 睨み合いは一瞬、直ぐにジョゼフは目元を歪め手に持った書類をテーブルに放り投げた。とめられていなかった書類の束は、バラバラと宙で広がり、テーブルの上に大きくバラまかれる。アンリエッタの背後に控えていたアニエスの顔に、苛立ちと怒りの感情が浮かぶが、僅かに視線を落とし、腹に溜まった熱を吐き出すことで咄嗟に出そうになった怒号を耐えた。

「それがハルケギニアの全ての王の上位にあたるハルケギニア大王。その初代大王に余を推薦することだと」
「その通りです」
「随分と簡単に口にするが、出来るのか? ロマリアは? ゲルマニアはどうだ?」

 芝居のように大きく両手を広げ笑いながら問いかけてくるジョゼフに、アンリエッタはチラリとテーブルに広がる書類に目を落とした。

「その点については書類に書かれていた筈です。ロマリア―――ロマリア教皇聖下におかれましては、ただ“権威”を我らに与えるだけの象徴となってもらうと。あとゲ
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