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幻影想夜
第十一夜「君、想う」
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えてみたが、自分には似合わないなと苦笑した。

―逢いたい…―

 きっと心のどこかで、そう考えていたんだと思う。
 気付くと、以前の通い慣れた道へ車を走らせていた。

―嫌だな…女々しい…―

 そう思いながらも、以前の職場の横を通り過ぎる時、その駐車場を見てしまう。
 一瞬チラッと、白い軽自動車を見つけた。

―ああ、働いてるんだなぁ…。―

 当たり前のことを考える自分を嗜め、スピードを上げた。

―どこへ向かうかな…―

 誰を誘うこともない。違うか…誘うヤツなんていない…だ。
 自分でも、どこへ向かってるかなんて知らない。ただ…どこでもいいんだ…。

   *  *  *


 夕暮れの、紅く燃える様な光。積もった雪に乱反射して、淡い幻を見ているようだった。
 あちこちを見て回り、食事はコンビニで買ったパンで済ませた。
 そんな風にしながら車を走らせていたら、とうとう県境まで来てしまった。
「戻るかなぁ…。」
 僕の一日は無意味だ。いや、僕自身が無意味だな。
 暮れゆく町並みに明かりが灯され始めた。外灯がやけに眩しい…。
 夕日の最後の一雫が落ちると、晴れた夜空には、無数の星を従えた満月が自らを誇張していた。

―笑いたければ笑えよ…―

 そんな風に月を見た。
「そういえば…。」
 彼女と店裏で月を見ながら、いろんな話しをした。大半は碌でもない話しばかりだったが、今では心に輝く思い出になっていた。
 少し胸が痛い…。

 還ることの出来ない日々を、ただ回想する自分を叱咤するが、次々と開かれるアルバムを止めることは出来なかった。
 メールを送ることは出来る。但し、一方通行だ。返って来ないことは知ってる。だから、もうメールはしない。淡い期待は持たない方がいいんだ。所詮は僕一人の我儘なんだから。

―君は僕のことなんて…どうでも良かったんだよな…―

 自分を深い淵へ追い込むように、唇を噛み締めた。
 横を白い軽自動車が通り過ぎた。

―まさか…!―

 僕は一瞬ドキッとした。でも、ありえない。ただの似ている車だ。
 僕は可笑しくなった。いつもこうだ…なぜありえないと分かってて、そう思うんだ!

―ほんと、馬鹿だよなぁ…―

 僕は何をしてるんだろう?多分、前の職場に行けば、笑って話し掛けてはくれるだろう。
 だが、自分の詰まらない自尊心が、それを止めている。

―メールだって、返って来ないんだし…―

 いつもいつも…!

―こんなにも君に悩ませられるなんて、考えてもみなかった!―

「逢いたい…!」
 言葉にしたら、より胸の痛みが広がった。
 近くに見つけた大型駐車場に車を停めた。
「逢いたいっ!逢いたいんだっ!!」

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