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碇知盛  〜義経千本桜より〜
4部分:第四章
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第四章

「平家一門の怨みの刃」
 憎しみに満ちた目で義経にじりじりと近寄りながら構えていた。
「受けるのだ!」
 その方ナで義経を切らんとする。しかしここで帝が声をあげられた。
「待つのだ、知盛」
「帝・・・・・・」
「義経は余を助けてくれたのだ」
 帝が仰るのはこのことだった。
「今まさに死のうとする余をだ」
「それは・・・・・・」
「その義経を仇に思わないでくれ」
 動きを止めてしまった知盛にさらに言われる。
「これまで守ってくれたそなたが。よいな」
「帝・・・・・・」
 知盛は最早動けなかった。これまで我が子の如く慈しみ守ってきた帝の御言葉だからだ。そしてその彼の側では。帝を御守りできなかったことと遂に仇を取れなかった平家の無念を知りすすり泣く局がいた。
 局はいたたまれなくなった。平家の因果、そしてそれが他ならぬ帝を苦しめていることに気付き。それに耐えられなくなった彼女は懐から小柄を出した。そしてそれを己の胸に刺したのだった。
「局!」
「知盛様、私はもう」
 すぐに自分に駆け寄って抱き寄せてきた知盛に対して今にも消えそうな声で言うのだった。
「これで」
「馬鹿な、何故だ」
「私は。今まで帝を御守りしてきたつもりでした」
 自分ではそうなのだった。しかしであった。
「ですがそれは違いました」
「違っていたというのか。それは」
「私は。帝を苦しめていました」
 このことを知盛に対して話す。
「因果で」
「因果・・・・・・」
「私は滅ぶべきでした。壇ノ浦で」
「それではわしもか」
「それは・・・・・・」
 流石にその言葉に答えることはできなかった。滅ぶのは自分だけでいいと思っていたからだ。しかしそれは違っていたのである。
「そうだな。我等は滅ぶべきだったのだ」
 知盛もここで遂に悟ったのだった。
「壇ノ浦で」
「そうすれば帝の御心を悩ませることもありませんでした」
「そうだな。全ては我等の罪のせい」
 知盛は沈痛な顔で局の言葉を受けていた。
「やはり我等は」
「去りましょう」
 局の言葉は今消えようとしていた。
「海の中に」
「うむ・・・・・・」
 知盛は最後に局の言葉に頷いた。局はそれを見届けると静かに目を閉じ息絶えた。知盛はそれを見届けると己の兵達を集めた。そうして彼等に残っていた僅かな金を渡し去らせた。それと共に碇を持って来させ岸壁でその綱を己に括りつけだしたのだった。
「何をされるおつもりか」
「知れたこと。わしもまた去るのだ」
 己の後ろにいる義経に対して告げるのだった。
「海の中にな」
「左様か」
「行くがいい。最早わしは追うことはない」
 そして彼にこうも告げた。
「帝のことは。頼んだぞ」
「わかった、この義経の命にかえてもな」
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