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黄花一輪
3部分:第三章
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第三章

 それから暫くして衛が落ち着き嚴仲子は国へ帰った。だが侠塁への恨みは変わらず機会を伺い続けていた。そうしている間に時がさらに過ぎ遂に聶政の母が死の床についたのであった。
「政や」
 母は死の床で看取る我が子に声をかけてきた。
「今まで済まなかったね」
「母上、何を言われます」
 聶政はそんな母に声をかける。
「ほんの些細な病です。少し休まれれば」
「いや、もうわかるんだよ」
 母は優しい声でこう語った。
「私にはね。もう長くはないね」
「それは・・・・・・」
「いいんだよ、隠さなくても」
 自分でわかっていることだから。もうよかったのだ。
「それでね」
「はい」
 そのうえで話をはじめた。
「今まで有り難うね」
 まずは我が子に礼を述べた。
「世話をしてくれて。こんな私に」
「いえ、それは」
 聶政はそんな母に対して言う。
「母上ですから。幼い頃よく菊を私に下さった母上ですから」
「菊かい」
「はい」
 聶政は答えた。
「それだけではありませんが。菊の御恩です」
「御前は菊が好きだったからね」
 母はそれを聞くと天井を見た。見ながら遠い目をした。
「野原でちょっと摘んだだけのものだったけれど」
「それで充分なのです」
 聶政は言う。
「私にとっては。菊であるだけで」
「いつも一輪だけの菊」
 母はまた言った。
「それで充分だったのかい」
「充分過ぎる程でした。母上と姉上が下さったものですから」
「その菊の御礼が今までかい」
「そう取って頂けるのなら」
「御前は。本当にいい子だったよ」
 声に懐かしさが篭もる。
「いつもね。私の為にしてくれて。だから」
「だから?」
「今度は。自分の為に何かをおし」
 我が子を見てこう言った。
「いいね、自分の為に」
「母上・・・・・・」
「今までは私の為にしてくれたんだから」
「かたじけのうございます」
 その目から涙が零れた。そして膝の上に落ちていく。硬く握り締めた拳にもそれは落ちた。
「謝るのは私の方だよ」
 母はうっすらと笑ってまた言った。
「御前みたいな剣の腕があれば世に出られたのに。私のせいで。だから」
 最後にこう言い残した。
「私が死んだ後はね。好きなようにおし」
「はい・・・・・・」
 聶政は泣きながら頷いた。そのまま母の最期を看取った。母の葬儀を終え喪服を脱ぎ終わった時。聶政はもう迷うことはなかった。
 すぐに店を閉まった。その時田縦が家にやって来た。
「魏に帰られるのですか?」
「いえ」
 その言葉には首を横に振った。
「魏にはもう。私の家はありませんから」
「ではどちらへ」
「義にです」
「義!?」
 田縦はその義という言葉に首を傾げさせた。
「魏は魏でも義、
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