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真田十勇士
巻ノ四 海野六郎その二

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「じっくりと炙ってから食する」
「虫ですな」 
 海野が目を光らせて幸村に問うた。
「それに気をつけて」
「魚は美味い、しかしな」
「中には虫がいますな」
「この虫が厄介じゃ」
「腹の中を散々に荒らし回り」
「時には死に至る」
 その虫によってというのだ。
「だからじゃ」
「火でよく炙って魚の中の虫を殺し」
「そのうえで食するのじゃ」
「そういうことですな」
「焦って食していいことはない」
 幸村はこんなことも言った。
「生の魚や肉は出来るだけ食せぬことじゃ」
「そういえば殿は生ものをあまり口にされますな」
 実際にとだ、穴山も言って来た。当然彼も由利もまだ魚に手をつけてはにない。
「これまでも」
「そうした理由でな」
「虫には気をつけられて」
「野菜等もじゃ。果実は違うがな」
「火を通してからですか」
「食する様にしておる」
「それも智恵ですな」
 穴山は幸村の智恵をここにも見て唸った。
「いや、武芸や兵法だけでなくですか」
「こうしたことも知らねばな」
「ことは出来ませぬか」
「そう思う」
 まさにというのだ。
「身を保つことも覚えておかねば」
「ならない」
「だからこそ今もですか」
「魚に火を通してから食うのですな」
「そういうことじゃ、しかし六郎よ」
 幸村はあらためてだ、海野に言った。
「御主、これまでもそうしてか」
「はい、水の中にいるものなら」
「あの様にしてか」
「潜って捕まえています」
 そうしているというのだ。
「常に」
「左様か」
「はい、それで水の場所に行けば」
 それでというのだ。
「食うものは手に入れてきました」
「左様か、しかし火は通していたか」
 幸村はまたこのことを問うた。
「その獲ったものに」
「そうしていました」
「それは何より、ではな」
「はい、火が完全に通ったなら」
「食おうぞ」
 こう話してだ、そしてだった。
 一行は魚を楽しんだ、そのうえで岐阜に向かいその根津甚八という者に会いに向かうのだった。しかしその途中に。
 ある城下町に来てだ、幸村はしみじみとして言った。
「信濃とは全く違うな」
「はい、これが美濃です」
 穴山が幸村に答えた。
「この国も山が多いですが」
「しかしじゃな」
「平野の部分はこうして人が多く賑わっておりまする」
「織田家が治めておったしな」
「織田家の楽市楽座の政により」
「人が集まって賑わってか」
「栄えています」
 そうだというのだ。
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