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契約書
6部分:第六章
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第六章

「御前達は必ず神の裁きを受ける」
 こう言って炎の中に包まれたのである。美男と言われその頭脳も知られたユルバン=グランディエはここに無惨な死を迎えたのだ。
 地元の有力者達も司祭達もこれを見届けて内心で喝采した。彼等にとっては忌まわしい女たらしであり政敵であり口汚い風刺家がこれで死んだからだ。リシュリューも報告を聞いて静かに述べた。
「これでこの件は終わりだ」
「これでなのですね」
「彼は死んだ」
 その端正かつ知的な形にした髭をほころばせもせず述べたのである。にこりともせず淡々としたものだ。
「政治的にはだ」
「政治では、ですか」
「そうだ。これで終わった」
 淡々とした言葉が続けられる。
「ただしだ」
「ただし?」
「怨みは残るかも知れない」
 リシュリューはこうも言うのだった。
「怨みはだ」
「ですが彼はもう」
「死んだのですが」
「それでもですか」
「戦場には負けた者達の怨恨が漂うものだ」
 いぶかしむ側近達に次に述べた言葉はこれだった。戦場で自ら戦ったことのある者だからこそ言える言葉である。彼は後に三十年戦争でも自ら指揮にあたっていた。体調を崩し担架の中でも指揮を執っていたのだ。
「それと同じだ。そしてそれはだ」
「それはですか」
「残ることもある」
 こう言うのだった。
「長い間な」
「では彼は」
「怨みは強いだろう」
 そのことも見越しているリシュリューだった。
「当然な。だが」
「だが?」
「政治として話は終わった」
 リシュリューは実に素っ気無かった。政治に徹していたのだ。
「これでな」
「では」
「御苦労だった」
 ルーダンに向かった側近への労いの言葉であった。
「後で報償を与えよう」
「有り難うございます」
 リシュリューはこれでこの話を終えた。本当にこれで終わりであった。政治的には。
 だが彼の最後の言葉は的中した。何と関係者達が次々に謎の死を遂げていったのだ。それはまさに呪われた様な死であった。それも一人や二人ではなく彼等は死の間際に彼の名前を叫んで苦悶の顔で死んだ。
 修道院長のジャンヌは遂に発狂した。そうして彼とはまた別の意味で無惨な姿を晒して一生を終えた。彼女が壊れた真相も謎である。
 そうして街には彼の亡霊を見たという者が出て来た。それはこの時代だけではなく今に至るまで延々と続いていることである。
 そしてその契約書だが今ではパリの国立博物館に残されている。偽造であることはもう明らかになっているそれだがそこには確かに悪魔の名前がこれでもかと書かれている。しかしそこに書かれているのは本当に悪魔なのだろうか。悪魔とはまた別のどろどろとしたものが書かれているのかも知れない。人は目には直接見ないが心ではそれを見ているのだろうか。少な
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