第三章
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「一ついいだろうか」
「何でしょうか」
「そなたはカストラートだな」
「はい」
「いつも言っているな、男でも女でもなく」
そしてというのだ。
「天使でもないと」
「その通りです」
「だから人を身体では愛せないと」
「その通りです」
「そうだな、しかし」
「しかしとは」
「心はどうなのだ」
王は彼にだ、ベッドの中から顔を向けて問うた。
「そなたの心は」
「心、ですか」
「そうだ、心はどうなのだ」
王はベッドの中からブロスキに問い続けた、その王のものとは思えないまでに古ぼけあちこち破れてしまっている物乞いが着る様な服で。
「そなたは心で。余を愛してくれるか」
「私は神に誓ってきました」
ブロスキは王の自分を見る顔を見詰めつつ答えた。
「常に。私を愛してくれる人を愛し共にいようと」
「では」
「私の様な者で宜しいでしょうか」
「喜んでうけよう」
王は微笑みブロスキに答えた。
「そなたの想い、その愛を」
「では」
「悩み、苦しむことの多い日々だった」
王にとっての人生はそうだった、まさに。しかしその悩みと苦しみに満ちた人生の中でだ。ブロスキと彼の歌はというのだ。
「しかしそなたがいてくれた。妃と共に」
「このことはですか」
「余にとっての幸いだった、余の人生に妃とそなたがいてくれてよかった」
王は部屋の天井を見ていた、その天井を見つつブロスキに話していった。
「このことを感謝して。余はこの世を後にしよう」
「左様ですか」
「うむ、そなたのことは最後の審判を受けた後でも忘れない」
こう言ってだ、そしてだった。
フェリペ五世はこの世を去った、ブロスキは王とのことを終生に渡って覚えていた。そして親しい者達に言っていた。
「私は掛け替えのない愛を持っています」
「その愛はどなたとの愛でしょうか」
「私を愛し、私を愛してくれた」
微笑みそして言うのだった。
「フェリペ五世陛下との愛を」
「あの方とのことをですか」
「身体では愛せませんでしたが。心と心で通っていたものを」
そのことをというのだ。
「私は忘れません」
スペインを離れイタリアに隠棲してからも言うのだった、そのうえで王との想い出のことに浸りその愛のことを想い続けていたのだ。彼の心の愛を。
カストラート 完
2015・4・13
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