第二章
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「立派な方だ」
「まだに陛下の為におられる方だ」
「陛下にとっての天使だ」
「まさに」
「お人柄も素晴らしい」
「まことにな」
何時しかだ、ブロスキは人としても尊敬される様になった。多くの報酬を貰い王の側近になってもだった。彼は彼のままだった。
ある時だ、貴族の美貌の夫人に誘われたがだ、彼は静かに答えた。
「遠慮させて頂きます」
「それはどうしてでしょうか」
「私はカストラートですので」
だからだとだ、彼は夫人に答えた。
「ですから」
「だからなのですか」
「カストラートは男ではありません」
夫人にも言うのだった、このことを。
「そして女でもありません」
「どちらでもないから」
「そうです、ですから」
「人を愛せないというのですか」
「身体では」
これが彼の返事だった。
「申し訳ありませんが」
「左様ですか」
「ですから」
「そうなのですか」
「はい、ですから」
こう言うのだった。
「宜しいでしょうか」
「ですがカストラートでも」
夫人は自分に謝るブロスキに追いすがる様にして言った。
「こうしたことを楽しまれる方もおられますが」
「その様ですね」
「ですが貴方は」
「はい、私は違います」
ブロスキはここで悲しい言葉も出した。
「ですから」
「そうなのですね」
「私は人を身体では愛せず」
そして、というのだ。
「男でも女でもないのです」
「では天使ですね」
「天使でもありません」
王にも答えた言葉をだ、夫人にも述べた。
「カストラートなのです」
「その他の誰でもない」
「それが私なのです」
婦人の願いを拒んで言うのだった、謝りつつ。
そしてだった、彼は王の傍にいて王に歌を聴かせていた。そうした日々の中でだ。王は病を得てそこから死に至ろうとしていた。
その死のとこでだ、彼は今も傍にいるブロスキに問うた。
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