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蒼き夢の果てに
第6章 流されて異界
第119話 有希
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 最後の打者……九組の五番打者が打ち上げたセンターフライをさつきが簡単に処理。
 そのシーンを最後まで見届けた後、ゆっくりとマウンドを降りる俺。

 その向かう先に待つ……この年頃としては、かなり頼りない華奢な身体に捕手として必要な重装備を纏った少女。冬の弱い陽光が彼女の白い肌、そして銀のフレームの上で少し跳ねた。
 清楚、淡麗、繊細。彼女を指し示す言葉の中に華やかさはない。しかし、僅かな緩みも、そして隙もない整った容姿は神秘的、と言っても過言ではないであろう。

 そう、まるで名工の手に因る人形のような、生身の人間が持つべき俗臭を一切、感じる事のない少女で有った。

 しかし、その瞬間に感じる。現在の彼女がかなりテンパって居ると言う事実が。
 表情からは何も感じさせる事はない。ただただ、其処に有り続けているだけ。その場のオプションとして認識されて居て、おそらく多くの人間が彼女を一個の人間として認識してはいないだろう、と言う存在。
 本来の彼女の任務。彼女がこの世界に生まれて来た理由から判断するのなら、無暗矢鱈と他者に印象を残すのは、彼女の任務に支障を来たす恐れが有るのでそれは当然の事。

 しかし――

「長門さん、すまんけど包帯を巻き直してくれるか」

 打順が回って来るまでにお願い出来たら有り難い。
 少しずれた包帯を指差しながら、彼女が何か言い掛ける前……機先を制する為に話し掛ける俺。
 もういい加減、こんな役に立って居ない代物(ほうたい)は外しても良いような気がしないでもないのですが、未だチームのキャプテンのお許しが出ないのでイニング間のインターバル毎に有希に巻き直して貰っている状態。
 もっとも、最初に包帯を巻いたのは言い出しっぺのハルヒでしたが……。

「ごめんなさい」

 俺の軽口に答えを返す事もなく、真っ直ぐに俺の瞳を見つめた状態で謝罪の言葉を口にする有希。
 普段ならば、俺が何か話し掛ければ、先にそちらの答えを優先させる彼女なのですが、自らの話したい内容の方を優先させた、と言う事は……。
 どちらにしても俺が話しを逸らそうとした企みは無視されたのだけは確実、ですか。

 それに、彼女が謝る必要はない。あれは……。

「俺の投げた球に力がなかった。だから打たれただけ」
【運命神が読んだ未来と違う未来がねつ造されただけ。有希が悪い訳ではない】

 口から出た言葉と本当の【言葉】。
 そう、自称ランディに投じた最後の球。外角のストライクゾーンから、更に外側のボールゾーンへと落ちて行くシンカーは、最初、間違いなくヤツの黒のバットに空を切らせたはずでした。
 しかし、刹那の時間。おそらく、アガレスの能力を発動させ自らの時間を自在に操っていた俺と有希以外には感じる事の出来ない短い間
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