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ベアトリーチェ=チェンチ
2部分:第二章
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第二章

「画廊に行きましょう」
「まずは肝心の絵を見て」
「本はそれからでも買えるからね」
 笑っての言葉だった。
「それからに行きましょう」
「わかったよ。それじゃあね」
「行きましょう」
 こうして彼女に引っ張られる様にしてその大学の画廊に入った。白い壁と紅い絨毯の広間に入るとその白い壁に多くの絵が置かれている。多くの人がそれぞれの絵の前に立って見ている。
 彼女もその広間に入るとだ。笑顔でこんなことを言ってきた。
「いいよね、こういうのって」
「いいんだ」
「こういう高尚なデートもいいじゃない」
 その笑顔での言葉である。
「普段こういう場所に行かないじゃない」
「確かにね。それはね」
「だからね。いいわよね」
 それでだというのだ。
「それじゃあ。その絵だけれど」
「ああ、あの美人が振り向いてきている絵だよね」
「そうそう、それよ」
 まさにそれだというのである。
「それを見ましょう」
「いや、ここは一つずつ順番で見ない?」
 僕はこうはやる彼女に提案した。
「そうしない?どうかな」
「順番でなの」
「絵は逃げないよ」
 これはまさにその通りだった。まさか絵に足が出て歩く訳もない。
 それであえて焦るなと言った。すると彼女もだ。
「そうね。それじゃあ」
「それでいいよね」
「ええ、わかったわ」
 穏やかな笑顔で答えてくれた。
「それじゃあ。ゆっくりとね」
「一つ一つ見ていこう」
 こう話して本当に絵を一枚一枚見ていく。絵はどれも見事なものだ。そしてだ。
 その目的の絵のところに来た。その絵は。
 白いターバンを頭に巻き服も白い。顔は整っているというものではなかった。
 今この世にいたらどれだけ注目されるだろうか。楚々とした顔立ちで唇は小さく可愛らしい形をしている。目は優しいもので儚げな印象を受ける。白くやや面長の顔で眉は細く奇麗なラインを描いている。そこにターバンからこぼれた栗色の髪がある。その美女が今にも消えそうな顔でその絵の中にいた。
 そしてだ。その美女のところにその名前があった。
「これがレーニの絵ね」
「そうか、これがか」
「ええと、絵のタイトルは」
 彼女が絵の下に置かれている札を見ながら言う。
「ベアトリーチェ=チェンチね」
「ベアトリーチェ=チェンチか」
「知ってる?」
「何処かで聞いたかな」
 どうもこの絵はイタリアのものらしい。イタリアのことについてはあまり詳しくはない。それでこの絵のことも絵の美女のことを聞いてもだ。首を傾げるだけだった。
 しかしここでだ。後ろから声がしてきた。
「この絵はですね」
「はい?」
「何ですか?」
「今処刑される人を描いたものです」
 二人で振り向くとそこにいたのは背の高い男の人だった
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