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乱世の確率事象改変
飛龍舞う空に恋の音
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想い人を失った。二度と間違いなど繰り返す気は無かった。

 朱里は軍師として此処に立つ。親友に向けるのは懺悔と決意。想い人に向けるのは後悔と
 大陸で一番の軍師になる為に、此処に立っていた。

 ひらり、と白羽扇が空を裂いた。
 機を得たり。彼女はこの時を待っていた。探し人は見つかった。悪龍が残した策の全てを、彼女は今、受け取った。

 一人の少女が目の前に居た。暗い昏い怨嗟を宿した、自分を殺す権利のある者が立っていた。
 その少女の後ろに並ぶのは薄緑色の鎧を着た男達。まるで空を飛ぶ龍のような色だなと思った。
 朱里は微笑みを崩さずに、睨みつけて来る少女をじっと見据えた。
 朱里の瞳の奥から暖かな光が消える。敵を追い詰める冷たい軍師になれるよう……もうそろそろ、身体を上げて空を飛ぼうと。

「……初めまして。私は諸葛孔明と申します。内密の会合を受けて頂きありがとうございます……陳宮さん」

 ふん、と鼻を鳴らした小さな少女は、犬歯をむき出しにして朱里に唸った。

「文は見たのです。一時的に受ける、と返事はしてやります。ですが、先にこれだけは言ってやりますぞ……お前は……最悪の軍師なのです、諸葛亮っ」

 狂気すら感じる憎しみの感情を叩きつけられても、朱里の心は揺るがない。
 全てはこの乱世を終わらせる為に。桃香の望むモノを為す為に。
 その為には……悪であろうと善であろうと利用しなければ……生き残れない。

 震える心臓が胸を打つ。甘い甘い感情が心を溶かす。黒い獣が求めていた。人を外れた策を出したあの男を、そしてあの男を越えることを、朱里は求めていた。
 アレを越えなければ。アレを……いつでも朱里の先を歩いていたアレを……黒麒麟を敗北させなければ朱里の望みは叶わない。

 彼が最後に向けた絶望の黒瞳に比べれば、怨嗟の瞳は些細な恐怖しか起こさない。
 故に朱里は……幼い身体に似合わぬ妖艶さで、笑った。

「……それでは、“同盟”は成立ということで……」

 まるで天に昇った悪龍と相対しているかのようで、ねねの心は僅かに圧された。
 彼女の想いは膨れ上がる一方だった。
 欲しい、欲しいと喚いて仕方ない。主の為が一番でありながら、黒い獣はもう一つ欲しいと喚き続けていた。

――……あの人をもう一度手に入れる為に。

 狂おしく懺悔する夜を幾重も越えても、彼女の想いは変わらない。
 伏したる竜は翼を広げ、飛龍の策を喰らいて天へと上る。其処に鳳凰が立ちはだかることを知っていながら。

「……“曹操軍打倒の第一歩”を……始めましょうか」


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