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鐘を鳴らす者が二人いるのは間違っているだろうか
序章 Twin Bell
1.鐘を鳴らす男、来たる
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 町の一角にある格安の宿。そのバルコニーに、一人の青年が立っていた。

「『神の住まう町』、オラリオか……にわかには信じがたいな」

 心地よい風と人のにぎわいからは、そのような神聖なものを感じない。だが、既に青年は数人の神と出会い、言葉を交わしている。抱いた感想としては、案外俗っぽい部分もあるんだな、というものだった。

「ふむ、記憶を失う前の俺はそれほど神と関わることが無かったのかもしれないな。ギルドの令嬢方にも調べてもらったが、結局俺がこの町に出入りした形跡はなかったしな……」

 青年は、自分でも驚くほどに冷静に、そんな言葉を発す。
 記憶――それは、人を人たらしめる重要なパーツの一つ。それを失うことを、この世界では「記憶喪失」、もしくは「死」と呼称する。青年は少なくとも後者になったつもりはなかった。
 バルコニーに肘をかけ、青年は本を取り出してぱらぱらめくり始めた。もしその場に本の内容を別の人間が見ていたら、それは本というより日記か手帳であることに気付けただろう。
 青年は難しい顔でそれを流し読みし、うんざりしたようにふん、と鼻を鳴らして閉じた。

「カルディスラ大崩落………魔物の狂暴化………オリジン・クリスタル………この日記帳に出てくる単語はまるで意味が分からん!まったく、昔の俺め……専門用語解説くらいはマメに書きこんでおけばいいものを。おかげで俺が書きこむことになったじゃないか」

 余り生真面目な性格ではないのか、もう見たくもないと言わんばかりにその日記帳を放り出そうとした青年は、ふと思い出したようにもう一度日記のページを捲る。
 目当てのページは直ぐに見つかった。そのページだけは何度も開けられていたのかよれて開きやすくなっていた。そして、そこには素人のそれとは思えないほど精巧な少女のスケッチが描かれていた。

「イデア………イデア・リー。恐らくは、俺の運命の(ひと)!」

 舌の上でその甘美な名前を転がし、その絵に映る少女を食い入るように見つめる。
 このページを初めて見た時、青年は電撃魔法に撃たれたかのような強い衝撃を受けた。

 ――この少女は、俺の命に代えても護らなければならない!

 記憶もないのに青年は確信した。それこそが唯一絶対にして記憶を無くしても不変の強い想い――すなわち、これは恋だ。
 青年は、この少女に絶対に会わなければいけないと強く願った。

「………『ヘスティア・ファミリア』か。この日記によれば、彼女はそこに入り、ダンジョンへと挑むらしいが…………むぅ。結構先の日付だな。待っていればいつかは会えるだろうが、ここは一足先に俺がここへ入ってみるか?」

 入念に『ヘスティア・ファミリア』についての情報を読み取るが、時々入っているスケッチには、未来に出会う
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