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渦巻く滄海 紅き空 【上】
八十七 彼女の決意
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彼女はみていた。
桜吹雪の中、里を出る者の姿を。

声をかけようと手を伸ばす。そうして、何か決意を秘めたその背中に、一瞬ためらう。

自分の行動は無意味だろうか。無力だろうか。足手纏いにしかならないだろうか。

不意に、背後をみた。今出て行った者の事など素知らぬとばかりに、里人は平和を謳歌している。
さわさわと揺れる桜並木からひとつ、またひとつと雨粒の如く落ちてゆく花弁が、肩まである彼女の髪に触れた。

――――けれど一時の迷いが後に後悔へと繋がるくらいなら。

彼女は一歩足を踏み出した。
遠ざかる背中を追って。
里を出た。
誰も彼女を、みてはいなかった。








「―――次郎坊の奴、上手くやってんのか?」

薄暗い森の中、肩越しに振り返る。眉を顰める左近の傍らで、鬼童丸は揶揄を返した。
「意地汚え大食らいだからな。追っ手全員、喰い潰してるかもしれんぜよ」
軽く肩を竦めた鬼童丸に、左近が舌打ちする。先頭を切っていた君麻呂が横目で後ろの二人を見遣った。
「……目的を見失ってはいないだろうな」

じろり、と鋭い視線に射抜かれ、左近と鬼童丸は慌てて次郎坊を庇った。大げさに手を振る。
「や、アイツもわかってるって!」
「そうぜよ!一応常識あるし」
「……お前達の事も指しているんだが?」
弁解する二人を呆れたように一瞥する。それきり前方へ顔を向けた君麻呂に、左近と鬼童丸はほっと胸を撫で下ろした。ひそひそと小声で囁く。

「やっぱ、まだ苦手ぜよ」
「でも以前より随分マシだろーが。大分態度も軟化したし…ボスさまさまだな」
(……聞こえてるよ)
背後の二人の会話が耳に届いて、君麻呂は内心溜息をついた。
そうして、遙か後方にて近づいてくる気配に、ふ、と口角を上げる。

(さて次は……誰かな?)











鬱蒼と生い茂る森に射し込む一抹の光。生き生きと枝葉を伸ばす木々が空を覆い尽くしている。
仄暗い静けさの中をシカマル達は慎重に駆けていた。

不意に赤丸がくぅん、と鼻を鳴らす。何度も後方を見遣る相棒の様子に、キバもまた顔を顰めた。
赤丸は匂いで敵の強さを判断出来る。故に、懐いている波風ナルが次郎坊を倒せるかどうか心配しているのだ。
聊か責めるような視線をキバはシカマルに向けた。
先に行こうと促したのはネジだが、最終的に決断を下したのはリーダーであるシカマルだからだ。
ナルの身を案じて、他の面々の表情もどこかしら硬い。

不安げに顔を曇らす皆の顔触れを見渡して、シカマルはふと天を仰いだ。
ナルの瞳に似通った青が、隙間無く空を埋め尽くす枝葉のせいで全く見えない。それをとても残念に思う。

けれどシカマルは間違っているとは思わなかっ
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